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客席放浪記

第14回禁演落語を聞く会

2015ン6月14日
なかの芸能小劇場

 立川談之助が、戦時中に自粛封印されていた、主に廓噺、不倫をテーマにした噺53席を、ゲストと共にすべて演じようというシリーズの14回目。私は初めて観に行ったのだが、目当ては禁演落語の方よりも、今年から立川流から落語芸術協会に移籍した立川談幸と談之助の対談が目当てだった。

 開口一番は快楽亭ブラ坊『近日息子』。東京には落語協会、落語芸術協会、立川流、円楽一門の四派があるが、快楽亭ブラックという第五の存在があることを、ついつい忘れがち。ブラック一人ではなく弟子がいるんだから立派な一門だ。ブラ坊は入門してから五年。今はまだ前座なのか二ツ目なのか・・・。でもとても口調はしっかりしているし、もう二ツ目なのかなぁ。

 立川談之助の禁演落語一席目は『とんちき』。この噺に関してはほとんど資料が残ってないそうだ。初代といわれている柳家小せんが作った廓噺。速記が残っているだけらしいが、廓の日常のスケッチのようなものらしい。それを談之助が現代風にアレンジを加えたらしい。大雨の日は廓に遊びに行く人も少ないだろうから、さぞかしモテるだろうと思った男が出かけてみると・・・といった噺。短いのでマクラが長くなる。談之助が学生時代、大雪の日に当時の池袋演芸場に行ってみたら、お客さんが自分以外にひとりだけ。そのお客は自分と同じ明治大学の落研の仲間だったといったエピソードまで入った、主に池袋演芸場話。さて噺の方は、大雨の日に廓に行った男は噺家。自分一人だと思ったら、別の部屋に先客がいる。その先客は自分同様、噺家。この噺家を現代の実在の噺家にしてしまって、そのふたりのことをディスることによって笑いを取っていた。いかにも談之助らしいアレンジ。

 立川談幸も談之助のマクラのあとを受けて、昔のガラガラだった池袋演芸場の話題。なるべく前の方に座るようにして、後ろを見ないようにしていたのは、ほかに誰もお客さんがいないのを自分が気付くのを恐れたからだとか。談幸は『包丁』。この噺は間男を頼まれた男を、見るからに嫌らしい男にしてしまうと、あとから女が寝返るという展開が不自然になってしまう。女が寝返ってもいいと思うくらいの、いい男でなければ成立しにくい。談幸は歌が上手い。これが武器だね。いい声を聴かせる粋な男に描いている。ただ、これって嫌らしい噺だから、もっと嫌らしくセクハラを仕掛ける男にした方がよかったかもしれない。難しいところ。

 仲入り後は談之助とゲストの談幸の対談。談幸は談之助の明治大学落研の後輩にあたる。今年から談幸は立川流から落語芸術協会へ移籍して東京の寄席に出ている。談志は自分が死んだあとのことは「勝手にやれ」としか言い残していなかったから、談志なきあとの立川流はみんなどうしたらいいのかわからなくなっているようだ。談志が死んだあと最初に「落語芸術協会に行く」と冗談まじりで言ったのは談之助。しかし実際行動に移したのは談幸だった。談之助も談幸も、談志がまだ落語協会に所属していた時期に弟子になって前座修業をしている。つまり談幸は落語協会、立川流、落語芸術協会と、三団体を渡り歩いていることになる。談幸は、寄席に入ってみると、落語協会も落語芸術協会も似たところがあると、その居心地に満足げだ。話は今の立川流の内情などにも触れ、談之助は落語芸術協会にも行きたいけれど、立川流を最後まで内側から見届けたいという意思も持っているようだ。お酒が入っているわけではないから、あまり突っ込んだ話にはならなかったが、もっと生臭い話も聞きたかったところ。

 立川談之助のトリのネタは『悋気の独楽』。この噺は寄席でもよく演じられているが、もともとは上方の噺だそうで、型も東京に入って来たのはひとつだけ。談之助は、先代桂文枝の型を東京の言葉に置き換えて演じた。大きな違いは、本妻さんがどうも自分の夫が浮気をしているらしいと気付き悔しがっている様子を最初に長く演じ、そのあとで噺はお妾さん宅に移る。待たせている定吉に帰って、今夜、旦那はお得意さんのところに泊まるからと言いなさいと告げ、小遣いを与える場面を入れる。ところどころ普段聴かないような笑いが入るのも新鮮。東京で耳にする型は少々聞き飽きてきた感があるから、この型はなかなか面白く思えた。

6月15日記

静かなお喋り 6月14日

静かなお喋り

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