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客席放浪記

談笑・落語外伝 第一回『文七元結』

2017年1月24日
成城ホール

 立川談笑が古典落語を一席と、その落語の前日談、後日談、登場人物の誰かのスピンオフの物語などを一席作って高座にかけるという企画の第一回。今日は『文七元結』。

 談笑の『文七元結』の特徴は、長兵衛には娘のお久以外にもう一人息子がいたという設定が際立っている。左官職人として名人と言われた長兵衛は息子に徹底的に厳しく仕事を教えようとする。しかし息子は自分には左官職人の才能はないと気づいてしまう。重荷に耐えられなくなった息子は川に身を投げてしまう。それがきっかけで長兵衛は博打に溺れる荒んだ生活をするようになったというわけだ。だから、文七が吾妻橋から身を投げようとしたところを止め、五十両の金をたいした躊躇もなく渡してしまうというのは、これで説明が付くことになる。お久が「私は女だから、おにいちゃんみたいに左官の仕事を手伝えない。だから吉原に来るしかなかった」という台詞にはジーンときてしまった。
 佐野槌のおかみがまたいい。長兵衛にいくら必要なのか訊くと、長兵衛が「四十両・・・いや四十五両・・・」と言い淀んでいる。そこに「あんた、自分の娘に値ぇつけてんだよ、性根据えて答えろよ!」と一括する。そして「さっと返しに来るんだよ」と付け加える。娘は毎日父親が迎えに来るのを待っているんだからと。こうやって金を貸した父親はあんたで二人目だ。その男は必ず返しますとペコペコペコペコしていって、結局帰ってこなかったという話を長兵衛する。ここんところもいいなぁ。
 「文七元結由来の一席でございます」でサゲてもいいのに、談笑のサービスでしょうね、さらにもうひとつサゲを用意していた。

 仲入り後の外伝。こちらは後日談。死んだと思っていた長兵衛の息子長吉は、実は生きていたという噺で、近江屋の旦那や佐野槌のおかみも再登場する。こちらも江戸っ子がテーマの人情噺に仕上がっていた。

 最後に、広瀬和生と談笑のトーク。今回の外伝噺は、長兵衛の息子が出てくる自分の『文七元結』とセツトでないと意味がないので、これで掛け捨てになる可能性が高いとのこと。もったいないなぁ。しばしふたりで、ほかの演者の『文七元結』話。いろいろ興味深い話が聞けたし、この噺の奥深さがわかった気がした。

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