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客席放浪記

2012年7月13日立川談春独演会(ルネ小平大ホール)

 前座の開口一番もなく、文字通りの立川談春独演会、三席。

 「毎日遊んでんじゃないよ」「遊んじゃないよ、家でゴロゴロしてる」
 なんだか私のことを言われているような耳の痛い始まりから『南瓜屋』
 「遊んでて、どうやってメシ食うんだよ」「箸と茶碗で」「箸と茶碗でじゃないよ」「じゃあ、しゃじで」「しゃじなんて言ったって、今時誰も知らないよ」「じゃあ、スプーン」
 「上を見て売るんだよ」を勘違いして、上に手を突きだして「うわー!」と叫ぶ与太郎。談春がマクラで、落語では与太郎を与太郎として描く。与太郎をどうにかしようとは思わないと言っていたが、まさにそれが落語。でも、与太郎に仕事をさせようというオジさんは、やっぱりどうにかしようと思っているんだろうな。

 楽屋弁当のことを語る二席目のマクラが楽しい。できたら持ち帰りのできる使い捨て容器のものがいいという気持ちはわかるな。地方に行って楽屋で出た弁当をホテルに持ち帰って食べるって楽しそう。「竹輪天が入っていた時にトンカツソースが付いてくるとがっかりする。竹輪天にはウースターソースでしょ」
 「ウチの師匠はハムサンドが大好きなんですが、ハムとバターとカラシ以外のものが入っていると途端に機嫌が悪くなる。挟むパンにもうるさくて押して弾力が無いともう食べない。漬物が嫌いで弁当に漬物が入っていると、落語会すっぽかして帰っちゃっうんですから」
 談春は、師匠のことを語るときに決して過去形を使わない。談春の中ではまだ師匠談志は生きているのかもしれない。
 二席目は『おしくら』。『三人旅』の一部だが、ここにも与太郎が出てくる。バカの与太郎を仲間外れにせず一緒に旅に連れて行って楽しく過ごすのが落語。いじめとは無縁の世界なんだ。

 仲入り後は『人情八百屋』。一席目の『南瓜屋』を笑いの多いところで終えた談春。トリになる噺は、その続きとも取れるこの噺。上手い構成だ。
 「落語を聴いて何かを得ようとなんて思わないで欲しい。一週間の疲れを取って、来週からまた働く力をくれなんて言わないでください」と言っていた談春だが、こういう噺を聴くと、貧乏でもいいから正しい生き方をしたいという気になってくる。
 与太郎に対するいじめなんていうのも落語では無縁の世界。落語世界で生きていたいものだ。

7月15日記

静かなお喋り 7月13日

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