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客席放浪記

2012年8月9日ごらく亭の夏休み(北沢タウンホール)

昼の部
 前もって知らされていなかったが前座が出た。桂九雀の会でみかける前田一知『延陽伯』。故桂枝雀の息子さんだ。私はこれで三回目だが、顔、表情、声がだんだんお父さんに似てきたような。これで落語を崩したら、お父さんそっくり。

 落語好きでもある、猫のホテルの千葉雅子に落語台本を依頼したら、出来てきたのが『三軒長屋』の改作だったという松永玲子。本編だけでも20分かかるのに、持ち時間15分ということで、前半だけということで始まったのが『三軒長屋 上 叱られたい』。真ん中のお妾さんが、女優さんが演ると色っぽいなあと思っていると、右端の鳶のカシラの女房が男みたいにおっかない。出入りの職人たちを叱り飛ばす。ははあ、これが「叱られたい」なんだな。職人の中には、小宮や松尾がいたりして、叱られている。「あれ? 『火焔太鼓』?」というフェイクもあって、いいところで「おあとは夜の部で」 惜しい切れ場だなあ。

 山口良一と大森ヒロシの漫才。あほんだらすけで演っていたネタを漫才にしたらしいのだが、面白い、面白い。タイトルをつけると『マツシマナナコ』かな?

 去年の会でも、その実力を見せつけた松尾貴史。今年も落ち着いてるなあ。街で見かけたスケッチ、振り込め詐欺の小噺から『鷺とり』へ。古典を崩さずキチンと演り、笑いを取る。それでいて松永玲子が噺の中でサラリと入れた松尾スズキの物真似を含めたクスグリも入れてくる余裕。もうこの人には敵わないね。

 山口良一『へっつい幽霊』。山口良一くらいのベテランでもやっぱり人前で落語を演るとなると緊張するらしく、最初は「ちょっと固いかな」と思っていたら、徐々に噺の中に入って行って、幽霊が出てきてからは、噺の中にお客さんを引き込むのはさすが。

 仲入り後は、去年に続きお座敷芝居。今年は『天狗裁き』
配役
亭主 小宮孝泰
女房 松永玲子
隣家の男 曽世海司
大家 前田一知
奉行&天狗 松尾貴史
役人 二重丸◎

 役者さんたちだけあって、こちらはお得意。相手役が繰り出してくるアドリブに小宮が突っ込みを入れて、どこへ行っちゃうかわならない芝居を、うまく進めていく。お遊びのように見えて、これは素人には出来ないだろう。

 スタジオライフという男だけの劇団に所属している曽世海司。女役を演るとき化粧台の前で化粧をしていると、そこに自分の母親の顔が現れるというエピソードを語り『干物箱』へ。若旦那の声色が上手い男が身代わりになる噺だが、物真似をひとつ。なだぎ武。アハハ、似ている。なだぎ武の若旦那というのもいいなあ。

 二重丸◎の太神楽。傘回しと、バチのジャグリング。

 トリは小宮孝泰『寝床・狂言バージョン』。40分の熱演。義太夫が狂言に変わっただけで新鮮な印象になり、楽しく聴ける。私は聴くのは二回目だが、それでも新鮮で楽しく聴けるのは、この改作がうまくできているからだろう。

 終演予定時間を大幅に上回って、昼の部終了。

夜の部
 昼が押してしまった反省からか、定刻前に前座の前田一知が出て『平林』。意外なサゲに爆笑。

 松永玲子『三軒長屋 下 女たちの午後』。昼の部の『上』で元の噺にはない道具屋の登場でどうなるかと思ったが、『下』ではちゃんと『三軒長屋』になっているところが凄い。通しでというか、もっと先まで聴きたいなあ。

 小宮孝泰『悋気の独楽』はこれで聴くのは何回目だったかなあ。もうすっかり安定したネタになっている。

 夜の部の漫才は、ラサール石井と小倉久寛。「自分は絶対にボケしか出来ない」という小倉に、ツッコミをやらせるというネタ。どうしてもツッコミが出来ないという展開で笑わせておいて、最後に小倉がツッコミをみせたところでオチという構成が面白い。こういう人たちには漫才なんて楽々クリアー出来ちゃうんではないかと思えてくる。

 夜の部は、とにかく時間通りに終わらせようということらしい。何しろ昼の部より一席多いのだ。マクラもそこそこにネタに入る人が多い。曽世海司『ちりとてちん』。腐った豆腐を懸命に食べる男の姿を見ていると、なんともけなげ。この人実はいい人なんじゃないかと思えてくるなあ。

 小倉久寛『蜘蛛駕籠』。この人の「あーら、くーまさん」は自然なのがいい。いつものボケが自然と身体から出てくるようだ。

 仲入り後のお座敷芝居『天狗裁き』も、昼の部に比べるとアドリブが少な目と思っていると、天狗のところでどうやら松尾貴史が台詞のキッカケを忘れたらしい。小宮が正そうとしたが突っ走ってしまい、そのまま昼間のギャグは使わずにアドリブの応酬。これは昼の部も観た者だけの特権。夜の部だけ観た人にはわからなかったろうな。

 ラサール石井『つる』。一度予期せぬ言い間違えがあり、ちょっと慌てていたようだが、この噺、気を抜くと言い間違いをやらかしかねない噺。気を取り直して続けるのも、こういうナマに慣れているからこそ。

 太神楽の二重丸◎も傘回しの金輪と枡のみ。

 トリの松尾貴史『高津の富』もマクラなしで、キッチリ。上手いなあ。それにこの人の落語は品があるんだ。

 夜の部は時間ギリギリで終演。お開きになった。どうやら来年も演るみたいで、役者の落語熱は下がりそうにない。

8月10日記

静かなお喋り 8月9日

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