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客席放浪記

母に欲す

2014年7月29日
Parco劇場

 東京公演千秋楽。エレベーターに乗ったら周りは若い女性ばかり。えっ! この人たちみんなParco劇場へ行くの? だって三浦大輔だよ!? よく考えたら主演の峯田和伸、池松壮亮目当てなんだな。私が三浦大輔=ポツドールの芝居を初めて観たのは2006年の『夢の城』からで、そのあとは三浦大輔のものは欠かさずに観に行っている。あのころのポツドールの観客といったら男ばっかし。女性はおよそ入り難かったんではないだろうか。開演前から何やら刺激的な音楽が大音量で流れていて、妙な気持にさせられる。芝居自体は、もう観てはいけないものを覗き見る感覚。それがもう中毒のようになって、また観に行かずにはいられなくなる。

 15分の休憩を挟んで3時間半近くある。しかしまったく飽きないのはさすが三浦大輔。

 最初は、いつもの三浦大輔らしいオープニング。峯田和伸が散らかった部屋のベッドで寝ている。電話が頻繁に鳴るが出ようともしない。どうやらフリーターをやって一人暮らしをしている若者らしい。故郷にいる母親から金をせびって、それを風俗で使ってしまう自堕落な生活。デリヘルに電話をかけると、デリヘル嬢が家の近くに来たら電話するとのことで待っていると電話が鳴る。てっきりデリヘル嬢が近くまで来たのだと思って電話に出ると、それは故郷の友人。「お前のおかあさん、死んで、もう葬式も済ませたぞ」という内容。慌てて部屋を出て、故郷に向かうところでタイトル。

 故郷に帰ってみれば、なぜ電話に出なかったんだと弟(池松壮亮)になじられる。父親(田口トモロヲ)は気落ちしている。東京で何もしてないんなら、しばらくこっちにいろと父親に言われ、男ばかり三人の生活が始まる。堅実に会社員生活をしている弟には恋人(土村芳)もいて、結婚を考えているようだ。

 そんな日常を描いていた第一幕が終り、第二幕が上がると、いきなり話が動き出す。台所で料理を作っている女性(片岡礼子)がいる。なんとまだ49日も済まないのに、父親が水商売の女性を引き入れ再婚するつもりでいるのだ。びっくりしたのは兄弟。絶対にこの新しいおかあさんを受け入れられるわけはない。弟が中心になって、いやがらせが始まる。ところがこの水商売上がりの女は、実に出来た人で何を言われても逆らわない。自分が子供を産めない身体と知って、この兄弟の母親になろうと努力しはじめるのだ。そんな新しい母親を見て、兄弟ふたりの態度も徐々に変化を見せ始める。

 いやー、ラストは衝撃的でしたね。もうガツーンと食らった感じ。男にとって母親とは何かというのをさらけ出されてしまった感じ。おそらく90%くらい占めていた若い女性客はこれをどう思っただろうか? 

 女性は結婚すると本能のように家庭を作ろうとする。それは男の目からすれば凄いことに思える。それに対して母親たる女性は何も見返りなんて求めていないようなのだ。

 今まで、コーテンコール無し、拍手なしの三浦大輔の芝居だったが、今回は一度だけだがカーテンコールがあった。さらにカーテンコールがあるんじゃないかといつまでも拍手を送る女性客。なんて優しいんだ。私はいつものことながら衝撃のラストを見せられて呆然としてましたがね。

 やっぱり女性は強いってことだよね。男は敵わない。

7月30日記

静かなお喋り 7月29日

静かなお喋り

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