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客席放浪記

らくご@座・紀伊國屋“芝浜とシバハマ”

2012年12月28日
紀伊國屋ホール

 古典落語の名作『芝浜』を鯉昇と、白鳥の新作で聴く会。もともと三題噺として作られたもので、皮の財布、酔っ払い、芝浜の三つのお題をどう白鳥が料理するのかが聴きもの。これに白酒、遊雀が加わるとなれば人気になる。チケットは完売。

 まずは、遊雀と白酒が出て、あとから白鳥が加わるという挨拶。趣旨説明のような白鳥の悪口のようなものをふたりが言っているところに白鳥が登場。「(この企画)どうせオレは噛ませ犬だろ?」に場内大爆笑。三題噺は普通その場でお題を貰い即興で噺を作るから、それなりのものでもお客さんは「こんなもんだろ」と納得する。とこが随分前からお題が与えられるとお客さんの期待度が増すので、そんなにヘンなものはできない。作ろうと思えば、「こんなのもできるよ」といくつか例をあげて見せる。「でもこれじゃあ、お客さんも納得しないでしょ」と、今夜のは直球勝負だと宣言する。
 『芝浜』といえば、立川談志が「落語の神が降りてきた」と談志流の『芝浜』を完成させたことでも有名。今日はどんな神が降りてくるかということで白酒が「権太楼が降りてくるかも」とチャチャを入れると、遊雀「死んでねえよ!」 仲間内のジャレ合いのような会話が楽しい。

 挨拶の余韻を引きずって、桃月庵白酒が白鳥のことを持ち上げたり下げたり。さらには東京の四つの寄席のことをこれまた持ち上げたり下げてみたり。こういう会に来ようというお客さんはやはりよく落語を聴いている人たち。爆笑に包まれる。桂文楽ならぬ、柱文楽という人と二人会を演ったという話から『新版・三十石』。もとは『夕立勘五郎』。浪曲の部分をわかりやすいように『清水次郎長伝・石松三十石船』に変えている。浪曲師の携帯電話が鳴って、本番中に電話に出てしまうというところも出てきて可笑しいのなんの。もっとも先日、老人ホームに慰問に来ていた素人腹話術師の携帯が鳴ってしまうというハプニングに遭遇したばかりだから、さらに可笑しさが増した感じ。

 さて、今日の注目。三遊亭白鳥がどういう『シバハマ』を演るのか。「ちょっと、起きてくださいよ」から始めるので。場内爆笑。起こされたのは桃月庵白酒。起こしたのは弟子の喜助。桃月庵白酒は名人となり人間国宝にまでなっているが、このところ落語をやる気にならない。それはライバルが誰もいなくなったから。喜助は船橋でおでん屋をやっている、昔は落語家で今はもう廃業してしまっている三遊亭白鳥を訪ねる。白酒にやる気を起こさせるために、もう一度二人会を企画することに。そこでわかってきた白鳥が落語家を廃業した原因は? そして二人会対決の結果は? といった噺。挨拶でさかんに白鳥を茶化していた白酒に一矢報いた感じ。

 仲入り後は三遊亭遊雀。「気の違ったような落語は仲入り前まででございます」と笑わせて入ったのは『七段目』。歌舞伎に熱中している若旦那を演じる遊雀の目こそ、およそ気が違っているとしか思えないけどねぇ。アハハハハ。

 トリの瀧川鯉昇『芝浜』は、あまりお客さんを泣かせようと持っていかないところが臭くなくて好感が持てる。ラストのおかみさんがあんまりリキが入らない。亭主魚勝も平然としている。このあっさり感が鯉昇落語のよさでもある。それでいて、酒好きの男の表情がいいねぇ。近所の人をたくさん呼んで呑んだ翌日、燗冷ましをハゼの佃煮で呑むところのおいしそうな事。最後に禁酒を解いて、酒を一口入れようとするところの表情などは、酒好きにしか出せないかもね。

12月29日記

静かなお喋り 12月28日

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