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客席放浪記

ヘーベーのお酌

2015年6月26日
新宿角座

 松尾貴史とナオユキの二人会。当初は、『松尾貴史×ナオユキ ネタ&トークライブ』という、そのままなタイトルが付けられていたが、当日会場に行ってみると『へーべーのお酌』というタイトルに変わっていた。

 幕が開くと、バーテン(ナオユキ)と客(松尾貴史)のコント。客がカウンターに座るとバーテンに「この世に別れを告げるにふさわしいカクテルを作ってくれ」と言う。「なんで死のうなんてするのですか」と問うと、客は自分が経営していた会社が倒産して借金を背負ってしまったと答える。するとバーテンは自分は10億の借金があるが、こうやって元気に働いていると答える。それがきっかけで、お互いの不幸自慢はとどまることなく続いて行く。

 松尾貴史の新聞の朗読。しかしただの朗読ではない。いろいろな人の声帯模写で聴かせる。常田富士男、藤本義一、滝口順平、岸田今日子、原田芳雄、小池朝雄、麻生太郎、安倍晋三、やんごとなき人・・・。すごいレパートリー。主に文化人系が多いのがこの人の特徴。人によっては元の文章を明らかに変えてるなというのもある芸の細かさ。

 ナオユキという人は、笑福亭鶴光の弟子という形らしい。落語芸術協会の寄席にも色物として出ているし、いろいろな落語家とのコラボも多いのだが、私は観るのは初めて。独特のメロディーを持ったような口調で街で出会った人の観察記のようなものを漫談のネタにしている。これが面白くて、クセになるような楽しさ。

 大喜利のようなコーナー。開演前に入場者に一句詠んで書いてもらったものを回収し、五七五をバラバラに切り分ける。それを箱に入れて、シャッフル。五七五、一枚ずつ引いて並べてできた句の意味を解説するというゲーム。題して『チャネリング句会』。不思議とバラバラに引いただけでなんとなく意味が通じてしまう句ができてしまったり、まったく意味不明の句ができてしまったりするが、それに無理矢理ながらも、上手く解説をつけるのが楽しかったり。

 松尾貴史の岡本太郎成りきり人生相談。目を大きく見開きっぱなしにして岡本太郎になりきったまま、長野智子がナレーションする人生相談に答えていく。いかにも岡本太郎が言いそうなことを、あの口調で。爆発してますね。ハハハハハ。

 ナオユキの漫談。パート2。やはり同じ口調で。ガード下の飲み屋で飲んでいるダメなおっさんウォッチング。いるよな〜、こういう人。

 最後はふたりのトーク。そもそも『ヘーベーのお酌』とはどういう意味かの解説から入った。ヘーベーとはギリシャ神話のゼウスとヘーラーの娘の名前。ヘーベーはヘラクレスと結婚することになるが、お酌が上手かったそうで、この人にお酌されるとみんないい気持ちになったんだとか。「へべれけ」という言葉は「ヘーベーのお酌」のギリシャ語「ヘーベー・エリュエケ」からきたという俗説があるんだとか。こういう雑学の知識がある松尾貴史も凄い。そのあとこのふたりがどうして知り合い、こんな会を開いたのかという話。これがまた長くて面白いエピソードが次々と続いて行った。最後にこの会はこれからも定期的に続けようという話に発展してお開き。

 角座を運営する松竹芸能のお笑いライブは、私などはネタだけが目的で行くのだが、ネタ意外に、芸人によるゲームコーナーやトークコーナーがあり、それがテレビのバラエティ番組以下のつまらなさで閉口してしまうことがある。松尾貴史とナオユキのこの会は大人の芸、大人の遊び、大人の会話に終始する内容。これなら次回も観に来たい。

6月27日記

静かなお喋り 6月26日

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