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客席放浪記

2012年10月23日平成特選寄席(赤坂区民センター・区民ホール)

 四月に二ツ目昇進した立川らく兵。すぐに『二人旅』に入ったが、二ツ目昇進の挨拶をマクラにしようと思っていたのを忘れて、途中で思い出したらしく、ふたりの旅の途中の会話で入れる。機転も利いて、大分慣れてきている感じ。これからが楽しみだね。

 林家彦いちは、お得意の「機長が来ていません」のマクラで沸かせて、パワフルな『反対俥』。最初に出てくる病弱そうな俥屋も可笑しい。俥に乗ろうとした客に「座ってはいけません。腰を下ろすと下のバネが壊れていて尻に刺さります。これを俥屋業界では、スプリング・ハブ・噛む」

 彦いちから、楽屋でずーっと喋っていると言われた桂雀々。とにかく高座でもテンションが高い。師匠である枝雀のエピソードや、NHK11人の乗客事件など、笑わせる自信のあるマクラを並べ、さらにそのテンションで『代書屋』。オチの付け方も凄いぞ。なんたろ、これ。ポーンおち。持ち時間いっぱい突っ走った。

 中入り後のクイツキが春風亭一之輔。「(地方から出てきて)前座になったとき、鈴本演芸場の向かいにあるABABをアブアブと読むのだと教えてもらい、後輩に『あれは、アブアブと読むんだ』と言ったら、『じゃあ、あっちのはオイオイですね』って、マルイだあ!」 前の二人がテンションの高い高座だったので一之輔も勢いテンションが上がる。『短命』は何回も聴いていると、前半の仕込みのところは、聞き流すようになってしまう噺だが、一之輔のは気が抜けない。前半部から飛ばしてくる。
 一之輔の落語で好きなのは、登場人物がなにやら無言で考えているところがあるところ。「これはなにかあるな」と思っていると、次に必ず何かドカーンと来る。ゲタゲタ笑っていると、案外静かにサゲたりする。まさに登場人物と同じで、何を考えいるのかわからない、意外でスリリングなところが、一之輔の楽しさだと思っている。

 先週、橋本で柳家喬太郎を聴いたときも、風邪をひいているとかで喉の調子が悪いようだったが、今日も引き続き調子悪そう。それでもタクシーの運転手が何やら携帯電話で話している内容から、不倫の臭いを感じて、「この運転手の話、聴きてえー!」と、間男噺『紙入れ』へ。不倫を誘ってくる女将さんが実に色っぽい。「あたし、風邪ひいてんのよぉ〜。あったまんなきゃ寝らんな〜い。あたしのクスリになってぇん」 こりや、男はたまんないよね。亭主が帰ってきて慌てて家を抜けだした男、忘れ物はないかと懐を探る。「煙草入れはあると・・・これは・・・オレの肉」 さきほどまで色っぽい女将さんを演っていたとは思えない。このギャップがまた喬太郎の魅力でもあるのだが。

10月24日記

静かなお喋り 10月23日

静かなお喋り

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