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蕎麦湯ぶれいく

左祭〜左甚五郎一代記

2018年2月10日
イイノホール

 講談、落語、浪曲で馴染み左甚五郎の出てくる噺だけを集めた演芸会。しかも『竹の水仙』やら『ねずみ』といった、よく耳にする噺は排除したプログラムの組み方がマニアック。それでもあっという間に完売だったのは、人気の松之丞、三三、喬太郎が入っているからか?

 まずは神田松之丞『甚五郎出生〜旅立ち』から。甚五郎の生い立ち。幼少時代から彫り物の才能があり、めきめきと頭角を表すという短い噺。まだこれからというところで三三と交代。

 「飛ぶ鳥落とす勢いの松之丞を十分で降ろして・・・」と始めた柳家三三『三井の大黒』は最近聴いたなと記憶を辿ってみれば、年末の[新宿末廣亭]のトリ、むかし家今松で聴いたばかりだった。三三で聴いたのは、かれこれ五年前、ここイイノホールでの独演会。ゲストが三遊亭白鳥だった。
 最後に甚五郎が金の分配をするところで、あのときは「この十両は白鳥さんに・・・もう少しまともな着物を作ってあげてください」とやって大受けだったが、今日は「成人式で振袖を着られなかった人に」と、はれのひ事件を取り込んでいた。

 ここで浪曲が入る。玉川奈々福と曲師の沢村豊子。浪曲でも甚五郎ものは人気だっだそうで、誰もが演りたがり、かつては「義士と甚五郎禁止」の貼り紙が楽屋にあったのだとか。
 『掛川宿』は、笑福亭鶴光も『掛川の宿』として演っているらしいが、私は初めて聴いた。例によって薄汚い恰好で宿探ししていた甚五郎が、尾張大納言様ご宿泊のため貸切とした宿の行燈部屋に強引に泊まってしまう。そうするとこれまたみすぼらしい爺さんが、同じように入って来る。この爺さん、ただの爺さんではなく有名な絵師狩野探幽。夜中に便所に起きた探幽は、大納言の泊まることになっている新座敷を覗く。そこに屏風があるのを見るとイタズラ心から、これに雀の絵を描いてしまう。そのとき硯に躓き部屋は墨だらけ。逃げちゃえって酷い人があっもの。そのあとにこの部屋を覗いた甚五郎は柱に大黒を彫り上げて、これまた逃げちゃう。なくとも茶目っけのある甚五郎で、楽しい噺だった。

 柳家喬太郎『偽甚五郎』は、これまた浮浪の男がある家に厄介になると、甚五郎を名乗る男がそこに厄介になっていて、鯉を彫っている。一目見たこの男、「この鯉は死んでるな」とボツリ。ならお前が彫ってみろということになるのだが・・・。甚五郎ものルーティンの展開とみせて、意外なラストにニヤリ。

 トリは神田愛山『陽明門の間違い』。甚五郎の噺というと水戸黄門的展開という黄金のパターンを思い出すが、これはちょっと気が重い噺。なかなか仕上がらない日光の陽明門建設に派遣された甚五郎。日光の大工たちの反感を買ってしまう。これが本当にあった噺にのか、それとも講談の作り話なのか。そも甚五郎は本当に実在したのか・・・。
 それでも大衆芸能のなかで、甚五郎はヒーローとして生き続けている。

2月12日記

静かなお喋り 2月10日

静かなお喋り

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