お江戸上野広小路亭十二月定席 2012年12月6日 お江戸上野広小路亭 仲入り休憩の時間を見計らって入場。 古今亭寿輔が相変らず客いじりだ。前の方の桟敷席の女性客を捕まえて、「女の人は立膝しないの! 女の人でも職人さんはやったけどね」 「先日六本木に行きました。若い人ばっかり。年寄りはひとりもいない。(客席を見回し)こうやってみると広小路亭は年寄りばっかり」 平日の昼間だから当然のようなものだけど、なら何で六本木は平日の昼間でも若い人ばっかりなんだろう。 今日は噺に入る気がしないらしく、よくやっている漫談『老人天国』だ。老人の話題あれこれを、川柳を交えながら可笑しく語っていく。もちろん老人たちには大受け。ズバリ核心に触れると、客席のあちこちから拍手が聞える。 「ボケた噺家はひとりもいません。常にプラス志向。自分の都合いいようにしか考えません。受けなきゃ楽屋に帰ってきて『客が悪い』。生まれたときからボケてんの」 「ボケやすい職業は何か知ってますか? ボケやすいのは公務員。チホウ公務員って言うでしょ。私の落語を聴いてわからない人は痴呆症」 ♪チャンチャチャチャチャン チャチャンチャチャチャチャン の東京丸京平の漫才。売出し中のときの鋭い漫才は今はいくぶん柔らかくなった印象。年取った分、年寄りにもよく受ける漫才になってきている気がする。 桂幸丸は『野口英世伝』。自分の出身地が生んだ偉人の話を、自分の事を混ぜながら話す得意ネタだ。野口英世記念館には、むかーし行ったことがあったけど、はて、ここで最後の方で語られている記念館の野口英世人形のこと、どこまでが本当なのやら。 春雨や雷蔵は季節ネタ『掛け取り』。先日、五街道雲助でも聴いたが、こちらは短縮版。狂歌、芝居、喧嘩。このあたりが現代でもわかりやすい部分だね。 東京ボーイズの謎かけ小唄。 「野田佳彦総理という人を 謎かけ問答で解くならば 昆布にワカメと解きまする。・・・カイサーン」 今でしかわかんないネタだね。選挙行かなきゃ。 トリが三笑亭夢丸。一昨年、中咽頭癌がみつかり、放射線治療を受けていたと最近になって知った。実は私も去年、下咽頭癌で手術をした。声帯を取るギリギリのところまでいって、運よく声帯切除は免れたが、今ではしゃがれた弱い声しか出ない。夢丸は中咽頭だったから声帯は無事で、しかも放射線治療だけで済んだらしい。 高座に上がった夢丸は、自分が昭和20年生まれだということを語り、少年時代、周りはみんな貧乏だったと話す。私はもう少しあとの生まれだが、やはり周りはみんな貧乏だった。 「通信簿に3とか4ばかりの子が普通でした。でもね、そんな子、将来何物にもならないの。通信簿が1とか2ばっかりの子、こういう子が出世するんですよ。子はカスがいい、ってね」 別に『子別れ・子は鎹』を演るのではなく、『かえるの子』へ。 中咽頭は下咽頭よりやや鼻に近い部分に当たるので、放射線治療の影響があるのか、やや鼻に抜ける口調だが、落語としておかしくない立派な高座だ。以前の夢丸は、やや肩に力の入った口調が私には気になっていたのだが、上手い具合に力が抜けた感じ。私にはむしろ聴きやすくなった感じがする。とくにこういう『かえるの子』のようなホロリとさせる人情系の噺は、力が入ると押しつけがましくて、くどく感じてしまう。それが今日はスーッと心に入ってきた。 よかった、よかった。これでまた夢丸の落語が楽しめる。 12月7日記 静かなお喋り 12月6日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |