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客席放浪記

年忘れ市馬落語集

2012年12月26日
なかのZERO・大ホール

 いきなり柳亭市馬が高座に上がる。場内騒然。なにしろ今日の主役が最初に落語を演るのだから。「30年ぶりの前座でございます・・・お客様の中には、『あとのことに気が行ってるんだろう』とお思いの方もいらっしゃるでしょうが・・・その通りでございます」 中入り後は市馬曰く「(お客さんが)聴いたことが無いような下品な歌」を市馬が歌いまくる歌謡ショウだ。
 季節ネタの『二番煎じ』でも、店(たな)の旦那連中が番屋で酒盛りを始めて、歌を歌いだしてしまう。「声だしの意味もあるからね」って何のことやら。ウハハハハ。

 「なかなか筋がいい前座さんだと楽屋でも評判でございます」と春風亭一之輔。「私が最初に上がるんだと思って来ましたよ。それが、市馬師匠が先に上がらせてくれって。『歌までの時間が欲しい』って、何のことですやら」。
 噺は得意の『鈴ヶ森』。間抜けな新入りの泥棒と親方の会話が素っ頓狂で可笑しい。「ドスっていうのは、何でドスっていうんですかね? ドッと刺してスッと抜くんですか? スッと刺してドッと抜くんじゃいけないんですか? ズッと刺してサッと抜くんじゃ」「うるせえよ! ・・・ドスはしっかり呑んでおけ!」 「呑むんですか? ・・・・・・(困った顔で考えている)・・・・・・オブラートください」 「ほんとだな! ほんとに呑むんだな!」 一之輔のキャラクターの考えている表情は可笑しいんだよなぁ。

 立川談春は談志から「落語は小さんで憶えろ」と言われたそうで、あれだけ破門騒ぎを起こしても、やはり談志は小さんを尊敬していたんだなと思う。粗忽者の小噺を演り、「小さん師匠の粗忽者って、粗忽じゃないでしょ? もう狂人ですよ」と、さらに狂人の度合いを増した『粗忽の使者』。そんな人物、侍にもなれないだろうし、第一、使者としてモノを頼むこともできないやね。

 さあ、仲入り後が、お楽しみ・・・なのかどうかの柳亭市馬歌謡ショウ。十五人編成のオーケストラをバックに、誰も知らない下品な歌だそうな懐メロ・ヒットパレード。
 ピアノ、ドラムス、トランペット4、トロンボーン2、ギター、ベース、キーボード、アルトサックス2、テナーサックス2。堂々たるビッグバンド、クミ伊藤とニューサウンズ・オーケストラだ。おやっ? 中に知った顔が混じっている。トランペットに林家正蔵。トロンボーンにおぼんこぼんのおぼん。
 第一景は三波春夫と村田英雄。キンキラの着物を着て出てきた市馬が気持ちよさそうに歌う。『チャンチキおけさ』『花と竜』『大利根無情』『皆の衆』。「また来年は違う着物を誂えて参ります」って、『紅白歌合戦』か? アハハハハ。もっとも「大晦日は(紅白のために)毎年空けてあるんですが・・・今年は小林幸子が出ないんで、ひょっとしたらと思ったのですが、小林幸子は紅組ですものね」と冗談なのか本気なのか。ウハハハハ。
 やはり懐メロ好きで本まで書いたという、当年35歳の林家たけ平が時間を繋ぐ間にお色直し。「市馬師匠に、『懐メロ好きはいいから、もっと落語を稽古しなさい』と言われました。後日落語を教えてもらおうとご自宅にお伺いましたら、『それはいいから、これを観ろ』とビデオと見せられたのが懐メロのテレビ番組」 出てきた市馬は白のタキシード姿だ。
 第二景。『あの娘が泣いてる波止場』『おんな船頭唄』『ソーラン渡り鳥』『おんなの宿』『夜霧の第二国道』『宗右衛門町ブルース』『別れの波止場』『夜行列車』。そしてアンコールに『赤いランプの終列車』。
 司会は主催者の加藤浩。この人もよっぽどの懐メロ好きだなぁ。曲のイントロ部分に被さる曲紹介の流暢なこと! 果たして採算があっているのかどうか他人事ながら心配になるが、主催者含めて楽しんでいる様子。そのシャレを、一緒になって楽しもうというお客さんもイキだねぇ。アハハハハ。

12月27日記

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