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客席放浪記

春風亭一之輔のドッサりまわるぜ2015

2015年7月4日
よみうりホール

 マクラで東京と大阪の違いについて語る上方の噺家は多い。笑福亭べ瓶は東京に住んでいながらホームグランドが大阪繁盛亭という上方落語をやる噺家。西武池袋線の掲示板の「こんど」「つぎ」「そのつぎ」の表示、一番早く来るのはどれかわかりにくいという指摘。場内爆笑。でも、わかりまんがな、そんなん。ネタは東京では『反対俥』として演じられる『いらち俥』。でも内容はかなり違う。東京にいると滅多に『いらち俥』を聴くことがないから新鮮に感じる。

 春風亭一之輔は季節の話題を振ってから『鰻の幇間』。ついひと月ほど前に、コラアゲンはいごうまんとの会の時にも聴いたが、この間にさらに進歩した感じ。一八がより幇間らしくなってきた。鰻屋で出された酒を以前は、口の中でポンと弾けたと言っていたが、今回は「痛い」と表現。「何かに蹴られたようだ」から、酒の銘柄を「澤の誉」はタイムリーな得点(笑)。燗の具合も「熱くなくぬるくなく、全身の活力を削がれるような温度」というのは、うまい表現だなぁ。仲居の「へへっ」という声が入る台詞も可笑しい。

 ゲストは笑福亭鶴瓶。『鶴瓶噺2015』でも話していた、64歳になって、うっかりが多くなったというマクラから『青木先生』。鶴瓶自身の体験を基にした新作落語のひとつ。男子校の生徒だったころ、70代の男性教師にクラス中の生徒と一緒にいたずらをした噺。単に可笑しいだけでなく、鶴瓶自身がだんだんと70代に近付いてきているので、マクラとのからみで余計に深みが出た。

 仲入り後に柳家小菊がヒザで出る。寄席に出る時より少し長めの持ち時間かな。『ぎっちょんちょん』のあと、梅雨らしい傘の都々逸が並ぶ。
 ひとりで差してる傘ならば 片袖濡れるわけはない
 傘を買うなら三本傘よ 雨傘日傘に忍び傘

 春風亭一之輔のトリの噺『子別れ』は『子は鎹』に入る前に、中の部分を10分ほど頭に付けた。この部分があるかないかでは、この噺の深みが大分変ってくる。寄席のトリでは持ち時間の関係でこの部分まではできないが、こういう時間に余裕のあるときには、やはり入れておくのは正解だと思う。女郎買いに居続けて四日後に帰って来た熊が、女房を前に言い訳をしているつもりが、ついついのろ気話になってしまう。そのことを怒られると「悪いと思ってるから、こうやって懺悔してるんじゃないか」は可笑しいね。女房、子供が出て行って、代わりに女郎がやってきて生活を始めて、自堕落な生活ぶりに嫌気がさして心機一転。女郎を追い出して、好きだった酒もプッツリとやめて働き出す。「朝から茶碗酒って、飲むのは気持ちいいですが、見ていると腹が立ちますな」という心境になっている。これらが『子は鎹』になって効いてくる。この噺は一之輔流の入れ事をせずに、一直線に『子別れ』の世界を演じてみせた。まあ、亀ちゃんはなかなかに現代っ子で、いかにも一之輔って感じだったが。

7月5日記

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