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客席放浪記

一之輔のすすめ、レレレ〜Vol.11

2016年3月12日
なかのZero小ホール

 開口一番は一之輔の弟弟子、春風亭一左。ここの一門は声の通りがいい。次に上がった一之輔が彼から「滑舌が悪いのだがどうしたらいいか」と相談されたことがあるとのことだが、そんな感じはしない。『浮世床』の本の部分をやったが、この本を読む男がつっかえつっかえ読むところと、回り人間の反応がきれいに描写されていたように思う。

 春風亭一之輔の一席目。青山学院初等科の学校寄席に行ったときのエピソードをマクラに『人形買い』。懐かしいなぁ。あれは2009年の秋、人形町の人形市開催とリンクさせる形で、翁庵寄席は『落語人形市』という企画を考えた。トリは瀧川鯉朝さんに、ペコちゃん人形の噺『街角のあの娘』、それに川柳つくしさんには人形の出てくる新作落語を何か考えてもうことにした。そしてもう一席、私は古典落語の『人形買い』を誰かに演ってもらいたいと思った。予算の関係で、三人目を真打は無理。二ツ目の人で誰かこの噺を持っている人はいないかと考えたのだが、どうとしても浮かばない。当時たまたま、ほかのことでお願いしていた一之輔さんに相談したら、「(私は持ってないが)憶えてきます」とのことで、お願いしたのだった。あれから6年ちょっと。オクラにしないで、ちゃんと持っていてくれたことがうれしい。そしてあの時よりも確実にこの噺を面白く作り上げている。それだけで私はうれしさがいっぱいになりながら聴いていた。。

 二席目は『天狗裁き』。これは私はあまり好きでない噺のひとつ。よく出来ている噺だとは思うのだが、一度この噺を聴いてしまうと、もう噺自体は台詞を含めてほとんど頭に入ってしまっていて、誰のものを聴いても特別に面白いと思ったことがない。たいていこの噺が始まると、聞き流しているというのが本音。ところが一之輔のものはすごかった。まったく退屈しない。それは一之輔がこの噺を自分のものとして、自分のなかで再構成しているからだろう。見た夢の話を教えろということで夫婦喧嘩になる過程の見せ方、隣家の男が喧嘩の仲裁に入ったところの持っていき方、大家が出てきての「バカ」という言葉を連続して言う可笑しさ・・・と、次々と一之輔が工夫した噺の膨らませ方に飽きが来ない。今まで聴いた『天狗裁き』のなかでは一番の面白さ。まさに「『天狗裁き』って、こんなに面白い噺だったけ?」という気になってしまう出来だった。

 よく考えてみると、この二席、お喋りで喋りたくてたまらない小僧の噺と、人が見ていないと主張する夢の話を聞かせろという者たちの噺で、これで対になっている。面白い組み合わせを考えたものだ。

 仲入りのあとに出てきたのは、パントマイムを大道芸としてやっている加納真実。青のジャージ姿は彼女のいつものコスチュームらしい。
 中島みゆきの『わかれうた』をバックに準備体操とも踊りともとれる不思議なバフォーマンス。
 次がビニール傘を持ち出して、台風のなか(?)、スタンドマイクの前まで来て『長崎は今日も雨だった』を歌おうとするというパントマイム。一番も二番も「♪雨だった」の部分だけをセンターマイクから離れた位置から歌えるだけ。
 最後が、インターネットにもアップされている大道芸『仮面舞踏会』。客席まで降りてきて、捕まったお客さんは餌食にされてしまう。ちょっと怖い。けれど妙に可笑しい。

 一之輔トリは『愛宕山』。加納真実の乗りをそのままに、アバの『ダンシング・クイーン』のメロディーに乗って愛宕山を登って行く一八。あれだけぶっ壊れたパフォーマンスのあとでは、こういう荒唐無稽な噺しかないのかもしれない。谷底で小判を拾い集める一八。「私、この金を元手に寄席をやるんだ。トリは毎日一之輔。白酒や三三なんて呼んでやんないんだ!」

 この会のゲスト、前回は林家二楽だった。その前も、寒空はだかとか米粒写経とかだるま食堂とか、ちょっと変わった芸人が並んでいた。一之輔の落語を聴きたいのはもちろん、ゲストの面白さでも、この会はこれからも要チェックだね。

3月13日記

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