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客席放浪記

第1回落語作家井上のかたち
柳家一琴の初物づくし

 開口一番前座さんは、柳家小ごと『子ほめ』。一琴のお弟子さんで、一琴の「琴」をひらがなで貰ったらしい。これに小さん、小三治一門の小を付けて、小ごと。前座さんだから小言も貰うだろうからということもかけてあるらしい。上手い高座名だ。前座修行頑張ってね。

 柳家一琴が、古典、掘り起こし、新作の三席を一度にネタ下ししてまおうという意欲的な独演会。
 一席目は古典のネタ下し。すでに古典のネタを三百以上持っているそうで、もうやりたい噺はやり尽くしたとのこと。残った中から来年の春用にと『花見酒』。一琴は下戸だそうだが。酒に意地汚い酒飲みの心情がよく出ている。普段はどぶろくや焼酎しか飲んでいないお腹が、日本酒が入って来て、「どけどけ」と言われるのって可笑しい。

 掘り起こしの『馬鹿竹』も酒好きの男の噺と書きたいところだけど、こちらは酒乱。これがかなり凄みのある酒乱で、おかみさんも愛想をつかして離縁してくれと切り出すのもわかる。これも下戸の一琴ならではの、酒飲みに対する容赦ない描写かもしれない。飲んだくれな男だが、谷中の五重塔の絵図(設計図)を引いてくれとの使いに、棟梁自ら頼みに来いと突っぱね、棟梁がやってく来て頼むと引き受ける。仕事をしているときは酒を飲まず、禁酒のまま三週間かけて絵図を引き、この仕事が評判になって、次々と大きな仕事が入り、酒を飲まない日が続くというのが面白い。別れた女房は女乞食になっていて、自殺をはかるところを救われる(なんとなく『ちはやふる』を思い出す)。基の速記本では、嫌〜な結末らしいが、一琴は、わりと後味のいいものに変えたようだ。

 最近、ネット広告で新しいダイエツトサプリを知り、飲み始めたという一琴。なんでも太る原因は「デブ菌」というのがお腹のなかにいるせいだそうで、その「デブ菌」を減らし、「ヤセ菌」を増やすサブリなのだとか。そういえば、いくら食べても太らない人が世のなかにはいて、あれは「ヤセ菌」のせいなのだろうか? 効果は三ヶ月で表れるそうで、今飲み始めて一ヶ月。2キロ太ったそうだが、二ヶ月後が興味津々
 三席目は、井上新五郎正隆書き下ろしの新作『まんぷく番頭』。あるお店の番頭さんが占い師に呼び止められて、食難の相が出ていると言われる。喰いっぱぐれるのかと思ったら、やたら食べることになるのだという。店に帰ると、献上するお菓子の味見をしてくれと言われて、山のような菓子を食べさせられる。大喜びの番頭だが、このあと、せんべい、おむすび、麺を大量に食べさせられることになるという噺。何種類ものうどんを食べさせられた後で出てくるのは、少量のそば。これなら食べられると思ったら、わんこそばだったというのには大笑い。
 奇妙な味の短編に通じる噺で、これは傑作。

9月3日記

静かなお喋り 9月2日

静かなお喋り

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