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客席放浪記

今ひとたびの修羅

2013年4月13日
新国立劇場

 尾崎士郎の『人生劇場』は何度も映画になったが、こちらは宮本研が1985年3月の新橋演舞場公演に書いた脚本の再舞台化。任侠ものというよりは文芸ものといった感じの仕上がりになっている。

 素晴らしい芝居だった。あえて言ってしまうと、ここ数年観た芝居の中でダントツだった。何度でも観たくなってしまったが、もうチケットはソールドアウトだろう。当日券は若干あるみたいだが、どうしよう。

 なんといっても脚本がいい。飛車角(堤真一)と、おとよ(宮沢りえ)、宮川(岡本健一)の三角関係。そして瓢吉(小出恵介)と、お袖(小池栄子)、照代(村川絵梨)の三角関係。このふたつが実にうまく描かれている。相手をののしり合うわけでもなく、大人の関係にあるこの世界はちょっとなかなか書けるものではない。
 もう全篇に、名台詞ともいうべきものが散りばめられていて、書き留めたくても追いつかない。脚本になったものがあれば是非読みたい。

 演出はいのうえひでのり。劇団☆新感線のような騒々しいものを想像していたのだが、人の心の中の“思い”みたいなものを、しっとりと描き出している。舞台美術の見事さもさることながら、その使い方がまた見事。第一幕が終るところの回り舞台の使い方には息を飲んだし、第二幕が上がってすぐ、その続きが始まる。2時間半の芝居だから休憩はいらないだろうが、こういう見せ方というのもあるんだなぁ。クライマックス。吉良常が病床にいる部屋からの場面転換。海鳴りの音がしてお袖が窓をあけると回り舞台が回って海。そして雪が降ってきて兵隊が行進していく。そこへ、飛車角と宮川がドスを持ち、傘を差しながら歩いて行くところへの見事な移り変わり。「凄い!」 新橋演舞場のものがどうだったかわからないが、この演出はダイナミックかつ美しい。

 衣装がいい。和服がこんなにきれいに映える芝居は今まであまり観たことがなかった。堤真一の着流し姿が画になっている。宮沢りえも同じ。そして小池栄子は和服は合わないだろうと思っていたらこれがまた実にいい。惚れ惚れしてしまった。

 照明も戦前の雰囲気を出しながら、それでいて暗くなく柔らかい光に包まれている。

 音楽がまたいい。開演前がら『イン・ザ・ムード』が流れ、音がだんだん大きくなって終わったところから芝居が始まる。休憩中もラグタイムが流れていて、それが終るとスッと芝居が始まる。クライマットスはオリジナルの胸を打つ主題歌が流れ続ける。

 WOWOWあたりが中継録画していないだろうか? また何度でも観たい芝居だ。

4月14日記

静かなお喋り 4月13日

静かなお喋り

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