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客席放浪記

引退屋リリー

2016年3月2日
紀伊國屋ホール

 生前つかこうへいが、オーデションまでして練り上げていたものの、結局完成に至らなかった芝居。つかこうへい七回忌の今年、つかこうへい劇団にいた若手中心に、この幻の作品を再構成して舞台にかけた。

 例によって、ストーリーはあるといえばあるのだが、ほとんどカオス状態。しかしそのつかこうへい的世界に頭をゆだねて、各役者の長台詞に聞き入って感じていればいいといった芝居なのだろう。頭の中でストーリーを再構築しようとすると、矛盾が多すぎるのと、あまりのホラ話になってしまい、「ありえね〜」となってしまいそう。

 リリー役はアメリカドラマ『ヒーローズ リボーン』に出演の佑真キキ。いかにもつかこうへいのヒロインらしいストレートロングヘアー。つかこうへいの芝居には、独特の節回しと、セリフのないときはキッと客席の奥を見つめるというスタイルがあるのだが、それをちゃんと実践している。

 日本の三大自殺名所地のひとつ犬島という架空の島から、父の自殺を見届けてひとりで帰ってきたリリー。実はリリーは父親を殺したのではないかと疑う刑事、犬島の守り人、リリーを主役に映画を撮っている映画監督、彼女に近づいてくるヤクザなどがからんで、進んでいく。さらにはマッカーサーやら美空ひばりやらがキーワードになる。

 話は終盤になって、犬島の秘密に触れることになるのだが、そこには戦中戦後の日本や後のベトナム戦争までが色濃く関わってくる。

 セリフの多くはつかこうへいが残していったものだろうが、ところどころ時事ネタも入ったりしていて、新たに作り込んでいったんだろうなという部分が感じられた。

 不満もないではないけれど、これはまさに未発表のつかこうへいワールドを、彼の死後に見せてくれたうれしい作品。

 うれしかったのは、それだけではない。なんと一時期のつかこうへい名物、予告編があった。フィナーレのあとに突然始まったのは、『長嶋茂雄殺人事件』の予告編。確か小説の形で発表されたもので、芝居にはならなかったはず。村山実やら野村克也、野村沙知代まで登場するという・・・小説でそんな場面あったのかなぁと思ったら、これ、偽予告。上演の予定はないそうだ。

3月3日記

静かなお喋り 3月2日

静かなお喋り

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