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客席放浪記

第32回いっぷく寄席

2013年3月27日
深川資料館通り商店街事務所

 この会に来たのは何年振りだろう。柳家小蝠の会でゲストにもうひとり二ツ目が入るという構成で、前回来た時も雷門花助がゲストだった。

 路地の奥の扉を開けて二階への階段を上がると、そこが集会所のようなものになっていて、そこで落語会が行われている。ここはいいお客さんが多い。落語好きだけど難しい顔をしている人がいない。のびのびと落語を楽しんでいるという、そんな雰囲気が溢れているのだ。ここに来るとホッとした気持ちになる。

 「よくいろんなところに呼ばれて落語をやります」と柳家小蝠。どんなところでも演り慣れているのだろう。
 「そば屋の二階だったりします」 そうそう、ウチも二階を使って二ツ目さんの会をよくやったっけ。
 「和ものということで、落語と組み合わせる事が多いですね。先日は、うなぎ屋さんで演りました。入場料が、うな重と合わせて3100円。メニューを見ると、この店、うな重が3000円。ということは、落語は100円」
 小蝠の一席目は『松山鏡』。桂文治門下に入り落語芸術協会に所属する前に立川流にいたことがあるから、もう芸歴20年になろうとしている。来年はどうやら真打昇進ということになっているらしい。声の通りもいいし、口跡もいい。しっかりした語り口はもう真打と言っていい。こういった民話のような噺も、落語らしく噺を持っていくし、人物もいかにも落語らしく演じる。年期を積んだ人の芸だなと感じる。

 小蝠より一足早く、この春に真打昇進が決まった雷門花助。名前も小助六になる。花助という名前はきれいでいいなと思っていたが、小助六を継ぐというのも、彼としては名誉でもあるだろう。ただ、コスケロクというのは言いにくい名前。マクラでそんなことを話題にして笑いを取る。
 「よく『落語家になるのに親から反対されたろう』なんて訊かれますが、ウチの場合は両親とも賛成してくれまして、父なんて『ならなくていいのかい?』と言い出すくらい。師匠にも弟子に取ってもらうのに頼みに行ったら二つ返事で入門を許されました」という珍しい人だ。
 落語が好きで好きで、特にレアネタをいろいろ持っている、落語家である上に落語マニアみたいな人でもある。この人の落語を聴いていると、ホントに気持ちが楽になる。いい意味で緊張感がない。落語を構えて聴かなきゃという重さがない。だからこちらも身体から力を抜いて、心から落語が楽しめる。今日は『らくだ』だ。
 「おい、らくだ、いるか?」と兄ィが入って来た最初から、落語好きは、「おっ、今日は『らくだ』だ」と緊張することになるが、花助の場合は違う。「へえー、花助が『らくだ』かよ」となる。この兄イ、人によっては最初っから力が入って出てくる怖〜いキャラクターにしてしまう人が多い。ところが花助だと、それほど怖くないし力も入っていない。それでいて目が飛んでいるのが至近距離で観ていると、よ〜くわかる。それと対照的な屑屋さんの弱々しい物腰。その対象の妙が、無理に力を入れ過ぎることなく演じられ続ける。
 長い噺だから、どこで切るのだろうと思ったら、屑屋さんがお酒を飲んでから、立場が逆転してすぐで切った。しかも、屑屋さんが酔っぱらってグズグスグズグズと独白するようなところをサラッと演って締めた。
 どうもこの花助という人、酒癖は悪くないと見た。自分でも言っているように、酒は大好きらしいが、きっと酔っぱらうのが好きなのではなく、酒の味そのものが好きなんじゃないかと思わせるところがある。だから、ひょっとすると酒を飲んで絡む人間なんて演りたくないのではないか。これは勝手な想像だが、そんな気がしてならない。
 “落語好きの純粋培養された落語家”という言葉が浮かんでくる。

 柳家小蝠の二席目。この会場はなかなかいいところだと思うが、一階部分に楽屋がある。なぜかそこには暖房装置が一切無いそうで、出番を待っているのに震えてしまうんだとか。人のよさそうな花助のマイナスイメージになるようなエピソードをマクラで暴露してからトリになる『一文笛』へ。序盤の詐欺師を思わせるスリの仕事師のうまいエピソードの部分から、中盤以降の人情噺に繋がる聴かせどころ。そして絶妙なオチと、これはよく出来た噺だと思うが、小蝠はそれぞれの聴かせどころのツボを押さえた語り口で持っていく。さすがだな。もう来年の真打昇進への準備も怠りないようだ。

 「春が来たね」という気持ちになり、清住公園の脇を歩きながら家路についた。夜桜見物の花見客の姿もチラホラ。楽屋は寒くても、やっぱり春なんだね。

3月28日記

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