第35回いつかは朝日名人会 2014年10月15日 浜離宮朝日ホール 開口一番は柳家花どんで『元犬』。前座修業頑張ってね。 二ツ目ふたりを呼んで一席ずつ。そのあと真打がそのふたりとトークをして、トリでその真打が一席演るという企画の会。今日は柳家喬太郎がホスト役の真打。 ひとり目は桂宮治。二ツ目に昇進してまだ二年半というところだが、すでに真打でもおかしくないんじゃないかと言われてる人。凄いと思うのは、今日の出演者は彼以外全員が柳家であるところに『道灌』をぶつけてきたこと。『道灌』は柳家の落語家が初めて教わる噺。いわば柳家の基礎ともなるネタだ。それを例によって、独特のギャグを入れ込んで突っ走る。もともと『道灌』という噺はそれほど笑いの取れるネタじゃない。ほんわかした笑いで、「おもしろいなあ」という程度のネタだ。それを落語家になったばかりの前座が何やら難しい言い回しなども暗記して人前で演ってみても、ほとんど笑いは返って来ない。それを宮治は見事に作り変えてしまった。私は今までこんなに笑った『道灌』は初めてだ。 もうひとりは柳家右太楼。来年春、真打昇進が決まった。昇進と同時に名前が柳家燕弥と変わる。右太楼の場合は、いわゆる本寸法といわれる話し方。余計なくすぐりなどは入れず、真っ直ぐに話す。今日のネタは『三方一両損』。あとのトークでも触れられていたが、この噺は上方では成立しない噺だそうだ。拾った財布の中の大金を、「受け取れ」「受け取れねえ」で喧嘩になるなんていうことは大阪ではありえないわけだ。「そんなもん人にやりまっかいな」なんだそうだ。右太楼は、ハナからお裁きなんてもの自体をバカにしてかかる江戸っ子を見事に演じてみせた。真打になってもおかしくない実力を付けてきたなという印象を持った。 トークのコーナーで早速、喬太郎がさっそく「『道灌』ってあんな噺じゃないよね」と切り出す。宮治は、「柳家の人の前では演らないようにしていたのですが、今日はいいかなと」。喬太郎なら、これをわかってもらえるだろうという勝算があったに違いない。トークコーナーの最期で喬太郎が「宮治さんには、これからもいろんな落語を跡形もなく壊していただきたい」言ったのも、褒め言葉と解釈していいと思う。 さて、古典をぶっ壊す落語、本寸法に演じた落語のあとで、柳家喬太郎は何を演るのか。興味津々でいたら、『紙入れ』を持ってきた。宮治が勢いだけで突っ走り、右太楼が落語に出てくる人物の深いところを出せるようになってきたとすれば、喬太郎が彼らより一歩抜きんでているのは表現力。このおかみさんの色っぽさはなんだ!? 演じているのは50代の白髪頭の太った男なのだが、聴いている側には喬太郎を通して、とてつもなく妖艶な女性が立ち現れる。羽織の紐を口に咥えてこちらをジッと見据えるなんていう技をどこで思いついたのか! 喬太郎が、ふたりの二ツ目を相手に、「できるものなら、俺を越えて行け」と言っているように思えた会だった。 10月16日記 静かなお喋り 10月15日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |