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客席放浪記

第29回朝日いつかは名人会

2013年4月25日
浜離宮朝日ホール

 開口一番前座さんは、林家扇『金明竹』。前座修業頑張ってね。

 三遊亭粋歌『銀座のなまはげ娘』は、男と別れたばかりの女性が主人公ってところは、以前に聴いた『おじいせん』に似ている滑り出し。銀座の宝石店で働いていたが、キャリアアップのためにパリへ行こうと退社したものの、男と別れて借金地獄。日給一万五千円に魅かれて就職した先は、秋田ふるさと館。なまはげの扮装をしてイベントに行く仕事だったという噺。最初は『動物園』を思わせたが、なまはげの恰好をして奮闘する女性の姿が浮かんできて滑稽な中にも、主人公の一生懸命さが感じられる噺だった。想像してみると若い女性のなまはげっていいなぁ。あまり怖くなくて、どこかコミカルで、イベントには打って付けでしょ。

 三遊亭ぬう生『教え子は競輪選手』は、競輪選手に浴びせられるヤジに注目した噺。私は競輪はやったことがないし、競輪場に行ったこともないが田中誠の『ギャンブルレーサー』を読んでいると、その口汚い無責任なヤジが面白いなぁと思っていた。それを落語に持ってきたのは、いいところに目を付けた気がする。高校を卒業して競輪選手になった男の出場するレースに高校時代の教師と友人が見に来る。そこに高校時代にあったある事件が絡み、レースと共に噺が進んで行く。「ヤジは愛情の裏返し」とはよく言ったもので、このヤジが噺にうまく絡んできて盛り上がるところが、よくできている。

 仲入りがあって、粋歌ぬう生に、柳家喬太郎が入ってのトークショウ。粋歌もぬう生も会社員生活を7年やってから落語家になったとのこと。またどちらも新作を演りながら、実際に高座にかけているのは9割が古典だというのも共通している。今はとにかく仕事が欲しいそうで、特に新作を演れるような場がなかなか無いのに困っているようだ。ふたりともよく出来た新作落語をできる人たちなのに、これを披露できる場があまりないというのでは、もったいないではないか。

 ぬう生は、自分の落語を、師匠の円丈から、もっと突飛な噺や意外性のある噺にと要求されるとの話を受けて、喬太郎はそんなに突飛な噺にする必要はないのではないかと語り、さらに人物の演じ分けの話になって、お開き。

 その柳家喬太郎の落語は『極道のつる』。そういう噺があるとは聞いていたが、私は聴くのはこれが初めてだった。古典落語の『つる』を聴いた組長がチンピラに、つるの語源の話をすると、頭の悪いチンピラが余所へ行って、それを演るという、『つる』のパロディのような噺。これなどもおそらく人物の演じ分けをデフォルメしたらどうだろうという発想から生まれたものなのかも知れない。それだけで落語は大きな広がりを見せていくものだなぁ。

4月26日記

静かなお喋り 4月25日

静かなお喋り

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