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客席放浪記

落語Fighter

2014年10月22日
日本橋劇場

 開演五分前に桂雀々が高座に上がる。前座なしで今日の主役が時間前に上がってしまうというのも珍しい。上方の落語家のマクラ、特に同じ落語家仲間、とりわけ自分より香盤が上の人の「けったいな」話をすると、やたら面白い人がいる。雀々もそうで、米朝のエピソードを語って爆笑を取り、次にざこばに行きつけの飲み屋に連れて行かれた話。これがめっぽう面白い。この面白さを文章にできないのが悔しい。文章では面白さが伝わらないだろう。その面白さが噺に入ってからもそのまま続くんだから、とんでもない人だ。『ん廻し』のクレイジーぶりは師匠枝雀よりも爆発しちっゃてるんじゃないだろうか。

 「『ワーワー言うておりまして』でサゲになるんですから上方落語って便利ですよね」と、おあとの春風亭昇太が言うとおり、上方落語、それも雀々の場合はきれいに下げるのが、かえって野暮になってしまいそうなんだから不思議なものだ。そんな昇太は先輩の竹丸と松山千春のコンサートに行った話がマクラ。コンサート中のトークでどんなことを言っても、そのあとの歌のうまさで許されてしまうカリスマ。そんな話題から、カリスマ的存在の老博打打ちと凡人の比較を描いた『看板のピン』に入る流れはさすが。このへんがやはり昇太も落語の世界ではカリスマの側なんだなと感じる。

 仲入り後はリクエストシートからの集計で演目が決まった。春風亭昇太『オヤジの王国』。次点は『愛宕山』だったそうで、どちらかというとお客さんの昇太に対する望みは新作なのかもしれない。昇太の新作には夫婦が出てくる噺が意外と多い。未婚の昇太が結婚生活に憧れているのかと思えば、それは『笑点』でのポーズにすぎず、「結婚している人を見て、一回も幸せそうに見えたことは無い」というくらいだから、結婚願望はないんだろう。それにしては昇太の落語に出てくる夫婦はなんとなくリアルだ。疲れて家に帰って来たおとうさんが、夕食を食べようとする。「今日のオカズはなんだ?」「・・・おかずよ」「おかずって、これはなんという料理なんだか言ってくれよ」「長ネギとしらたきを甘辛く煮たもの」「これ、お前が昼にすき焼き作って食った残りだろ!・・・・でも、すき焼きの残りっておいしい・・・」。アハハハハ、リアルだなぁ。そのリアルな想像力が結婚なんてしたくないと思わせているのかもなぁ。

 桂雀々『手水廻し』。次点が枝雀の作った『いたりきたり』だったそうだから、雀々の場合は古典を聴きたいと思ったお客さんの方が多かったのだろう。これがまたさすがに面白い出来だった。東京ではこの噺をこんなに可笑しく演じられる人はいないだろう。こっちも爆発しちゃってるじゃないの。大阪の旅館に泊まって手水を貰って、これを朝食と勘違いした男が洗面器の湯に塩を入れて飲んでしまう。「味は?」と訊かれて「味って・・・海で溺れたみたいや」と言うところでは笑いが止まらなくなってしまった。雀々、凄いな。

10月23日記

静かなお喋り 10月22日

静かなお喋り

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