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客席放浪記

直人と倉持の会Vol.2
磁場


2016年12月21日
本多劇場

 高層ホテルのスイートルーム。小劇団の脚本家柳井(渡部豪太)がカンヅメになって映画の脚本を書いている。監督の黒須(田口トモロヲ)、プロデューサーの飯野(長谷川朝晴)と取り組んでいるのは、戦前、戦中、戦後と、絵画や彫刻を世に送り出した、実在の芸術家の伝記映画。柳井の構想としては、この芸術家を一切画面には出さずに表現しようという斬新なもの。ところがこの映画は、この芸術家に心酔している出資者加賀谷(竹中直人)の依頼を受けてのもの。当初は「好きなように、いつまでかかってもいいから書いてくれ」と言われたていたはずなのが、秘書の赤沢(菅原永二)を通じて、「早く台本読みたい」と催促が来たり、どうやら愛人であるらしい女優椿(大空祐飛)を出してくれと、暗にアピールしてくる。当初の意気込みが厄介な方向に向かい始める。

 映画製作の現場って、多かれ少なかれ、きっとこんなんじゃないかなと思わされるお芝居。よりよいものを作りたいと思う脚本家と監督。金を出すからには意見も言わせてもらいたがる出資者。その板挟みになるプロデューサー。こんなことは、よく耳にするし、ありがちだよなとも思うし、当初、みんなが一本の映画を作ろうとして燃えていたものが、だんだん燻りだしていくってわかる気がする。終いには、みんなどうでもよくなって、妥協の塊みたいになってしまって、とにかく早いところ作って解放されたいなんて思っていってしまったり。

 柳井は、豪勢なスイートルームで書くのは落ち着かず、結局ファミレスで書き始める。ホテルへは寝に帰ってくるだけ。そしてようやく完成した台本を読んだ加賀谷は、なんだかよくわからない台本に激怒。柳井を脚本から下してしまう。そのあと、驚きのことが起こるのだが・・・。

 とてもよくできた台本で,二時間、夢中になって観ていた。役者さんたちもみんな熱演。台本がいいと役に入り込みやすいのかもしれない。上にあげた役以外でも、柳井のやっている劇団の劇団員時田をやった玉置孝匡の周りを軽くはぐらかす役まわり、同じく笑いの要素を盛り込む客室係の姫野(黒田大輔)も、いい芝居をしていた。

12月22日記

静かなお喋り 12月21日

静かなお喋り

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