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客席放浪記

実験落語neoシブヤ炎上ふたたび

2016年8月16日
CBGKシブゲキ!!

 二ヶ月前に行われた『実験落語neo』の二回目。かつて、1970年代から1980年代にかけて、渋谷ジャンジャンで行われていた、三遊亭円丈が主宰していた『実験落語会』、『放送禁止落語会』には、私も何度か足を運んだ。『実験落語neo』は、再び渋谷の街に実験落語を復活させようという試み。今回は実験落語の名にふさわしい作品が並んだ。

 立川吉笑『舌打たず』は、舌打ちだけで喜怒哀楽を表現しようとする男の噺。日本では舌打ちというのは嫌悪感を表すときのみに使う行為だけれど、国によっては意味が違うということを聞いたことがある。とはいえ、舌打ちだけで気持ちを表すっていうのは、やはり無理があるっていう、噺の方でも、そんな結論。

 落語会では、出演者それぞれに与えられた持ち時間というものがある。その持ち時間ちょうどを使って噺をするのは素人目からも、苦労だろうと思うのだが。桂三度は『時うどん』をどれだけ縮められるかをやってみせた。体感的にだが、ザッと数十秒といったところか。この手法で映画を短く表現するとどうなるか。『タイタニック』、『スター・ウォーズ』、『男はつらいよシリーズ全48作』など、すべて十秒以内に縮められることを証明してみせた。そこまで行くとやりすぎだが。
 落語の基本は小噺。それではその小噺をどれだけ長くできるかという実験をしたのが、『隣の空き地』。「隣の空き地に囲いができたね」「へえ」で済んでしまうものを、二人の会話を、のばしにのばす。うん、これぞ実験落語スピリッツ!

 柳家小ゑんは、『実験落語』が始まったときからのメンバー。そこから名作『ぐつぐつ』が生まれたわけだが、おそらく落語に擬人法を導入したのも実験落語が初めてだった気がする。
 今日は多趣味な小ゑんの面目躍如、鉄道マニアしか知らない用語が大量に出てくる『鉄の男』。カメラに関する造詣も深くて、カメラの専門用語もバンバン飛び出した。いちいち専門用語の解説を入れない、わかる人だけわかればいい。それも実験。

 台本なしで、高座で噺を作りながら演じるなんていうことは不可能のように思えるが、そういうことをやってしまうのが柳家喬太郎。三題噺の応用とも言えるが、これは並大抵なことではないだろう。まさに実験落語。今回もザッとした設定だけ決めて高座に上がったらしい。
 行きつけのもんじゃ焼き屋。そこには顔なじみの常連客が集まっている。なかに、「ここで彼女と待ち合わせしたのに振られた」と、ただ一人でひたすらもんじゃを焼いている男がいる。常連客たちは、なぜ彼女は現れなかったのだろうということの妄想を勝手に作り上げて楽しむといった噺。
 「いっぱいいっぱいなんだよ」「でも着地点は決めてあるんだ」という喬太郎自身の心情を挟めながら、噺は進む。
 こうして、いかにも喬太郎らしい結末へと噺を着地させた。出来上がった噺の演目は『もんじゃラブストーリー』。一席の落語が出来上がっていく瞬間を客席から共有できる体験。こんなスリリングで楽しい瞬間は、なかなか得られるものではない。

 トリは三遊亭円丈。アクション落語に挑戦した、これも名作『ランボー 怒りの脱出』。この噺を聴くのは、私はこれで何回目だろうか? 面白い! 円丈は記憶力が衰えたと、例によってアンチョコを持ち込んでの高座。ときどき噺の流れを忘れてしまうらしく、アンチョコで確認。それでも、個々の部分は憶えているらしく、熱演が続く。

 アフタートークで、ジャンジャンの『実験落語』に来たことがある人というアンケート。今回も手を挙げたのは、私ともう一人だけだった。
 円丈がいなければ、今の新作落語隆盛はなかっただろうし、落語という幅もグッと狭いものにしかなっていなかったはずだ。誰がなんと言おうが円丈は偉いのである。

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