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客席放浪記

第19回寿輔ひとり会

2015年9月16日
お江戸上野広小路亭

 年に一度のペースで開かれているらしい古今亭寿輔の独演会。初めて観に行った。場内満員。前方の座椅子席に空いている場所を見つけて座ることができた。

 開口一番前座さんは、寿輔の孫弟子にあたる古今亭今いち。前座修業生活ももう三年が経ったところか。今輔の会で初めて高座に上がったときから観続けている。声の通りがいい人で、滑舌がいい。本人が「太りました」とマクラで語っていたように、そういえば以前よりふっくらした印象。最近思うのは特に芸協の二ツ目って、太った人が多いなということ。二ツ目になって気が緩んで太りだしたというのはわからないでもないけど、前座時代に太り出すというのは大物かも(笑)。
 『まんじゅうこわい』、新しい感覚のクスグリも入っていたりして楽しかった。前座修業頑張ってね。

 二ツ目から桂夏丸。先月は二回この人の高座を聴いた。最近よく当たる。今日は親子で大相撲力士になった増位山のことを、うまくまとめた『増位山物語』。増位山といえば演歌歌手としても活躍している人。昭和歌謡が大好きな夏丸。マイク片手に、あのヒット曲『そんな夕子にほれました』を歌いだす。「これは海老名香葉子が作詞したものです。そう、今の正蔵のお母さんですね。では夕子って誰だと思います? 当時、海老名家のお手伝いさんだった人。四番の歌詞「♪キャベツをきざむ手を止めて 今日はそのままそばにいて」、これは子供時代の正蔵目線で書いたらしい」。へえ〜、そうなのかなぁ。「二年前に日本相撲協会を定年退職。そのとき出したのが『そんな夕子にほれました』の続きの曲『夕子のお店』。これまた歌いだした。一番で止めた途端に客席から「もっと先、歌って〜」。

 「待ってました!」の声をかけられながら古今亭寿輔登場。待ってましたの掛け声を最初にもらったときはうれしかったけれど、ハードルがあがってしまう分、怖くなったと語り、自分の初高座のことを話しだす。
 寿輔の初高座は[人形町末広]だったそうだ。「人形町末広にいらっしゃったことある方、いらっしゃいますか?」。おそるおそる手を上げたらば寿輔がこっを見た。しまった、この人は客を序盤でイジるのが芸風だったんだっけ。ところが自分の会ということもあるのだろうが、私はイジられず、初高座はお客さんひとりだったと、思い出話が始まった。[目黒名人会]、改装前の[池袋演芸場]。ほんとに客が来なかったと、いろいろなエピソードが次々と語られていく。[新宿末廣亭]の最前列に座った不良高校生がコンドームを膨らませて嫌がらせをするのに、怖いけれど立ち向かっていった話。精神病院や刑務所に慰問に行った話などの武勇談が30分。小三治真っ青のマクラだが、面白い、面白い。
 さらにはRCサクセションが『雨上がりの夜空に』をヒットざたころに、RCサクセションが出てくる落語を演っていたことがあるという話。顔に化粧をして高座で歌ったそうだ。うわ〜、これ観たかったなぁ。
 時間が無くなってしまったので短い噺をと『代書屋』。ところがこれも2020年オリンピックのエンブレム問題から、盗作問題についてのコメントが途中で入ってきたりして、実に自由な楽しい高座だった。いいのいいの、寿輔って人が演ると、これも許されちゃう。

 仲入り後の寿輔二席目は『お見立て』。寿輔の古典ってあまり聴いたことがなかったのだが、これはいかにもな寿輔流のギォグがところどころで入るけれども、噺自体はあまりイジっていない。それでいてなんともほんわりした寿輔落語になっている。杢兵衛大尽もそんなにごり押しの嫌らしさは感じられず、喜瀬川花魁も客を蛇笏のごとく嫌っている風でもない。嫌みのない『お見立て』。こういう古典もいいもんだ。

9月17日記

静かなお喋り 9月16日

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