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客席放浪記

KAAT式らくごの会・文学しばり 昼の部

2013年1月30日
KAAT 神奈川芸術劇場

 開口一番前座さんは、柳家まめ緑『からぬけ』。前座修行頑張ってね。

 この会は文学作品を落語にするという試み。桂吉坊は、芥川賞作家川上弘美作品から『夏休み』を持ってきた。梨農園で働きだした主人公にまとわりついてくる三匹の小動物との出会いを描いた幻想的な話。よくこういう話を落語にしたものだと思うが、妙にその世界に引き込ませる力がある。落語ってこういうこともできるんだ。でもこれ、落語と言っていいのだろうかと思っていたところで、ストーンとサゲが来た。おそらく原作にはこのサゲは無いのだろうけど、こうすると、やはり落語として完結したという安心感がある。こういう実験は面白い。

 柳家喬太郎は、小泉八雲作品からという告知がされていた。やはりちょっとプレッシャーがあるのか、心の叫びのようなものを吐いてから(書きません)『幽霊滝』に入る。『幽霊滝の伝説』といわれているもので、いわゆる怪談噺らしい話。ちょっとした自身の体験談と人から聞いた怖い話をマクラのようなものにして、本筋に。川で洗濯をしていた女たちが、日が暮れてきたころあいに、肝試しをしないかと相談する。中のひとりがその話に乗り、帳の落ちた祠に向かう。ショッキングな幕切れがそのままサゲになっているから、思わずゾーッとなる。これ、寄席でも夏場に怪談噺に使えそうだ。

 仲入り前にふたりとも文学作品の落語化を済ませたので、後半は普通の落語になるのかと思っていたら、柳家喬太郎はまた小泉八雲の話を持ってきた。『菊花の契り』だが、終盤に工夫を加えてサゲを付け、この噺の題名を『重陽』とした。なにしろ小泉八雲作品となると、くらーい噺になる。シーンと静まりかえった会場で、お客さんは固唾をのんで聴き入っている。それが最後のサゲでホッとできる。やはり落語っていいわぁ。

 トリは桂吉坊で、陽気な『崇徳院』。場が明るい雰囲気に包まれて終わる。

 クロージングトークでの喬太郎の弁を聞いていると、どうやら小泉八雲をやると決めていたものの、とりたてて稽古はしていなかった様子がうかがえる。小泉作品からいくつか候補を持ってやってきて、高座に上がってから落語として組み立てて話していくという、素人からすれば、綱渡りのような作業を、この人はやってしまうようだ。それでいて噺に引き込む力がある。これも、新作、三題噺などで培われた力なんだろうが、とんでもない才人がいるものだ。

1月31日記

静かなお喋り 1月30日

静かなお喋り

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