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客席放浪記

かもめんたる第16回単独ライブ抜旗根生〜ある兄弟の物語〜

2015年1月18日
新宿・シアターモリエール

 演劇人とも交流のある、かもめんたるだから男性客の割合が、ほかのお笑いコントユニットよりも多い。今回は構成にヨーロッパ企画の上田誠も参加していて、終演後にトークショーもあった。

 かもめんたるの、めんたると言うのは、まさにメンタルから来ているという事を今回初めて知った。この人たちのコントは人間の心理の奥深いところを掬い出だして、それをうま〜くコントにして表現してしまう。いわば、ただ単に面白いコントをやってみせるというのではなくて、より演劇的。人間の心の動きに着目しているように思える。

 たとえば、ドッジボールのコント。ドッジボールでボールを当てられたら、どういう表情を浮かべて、どのような足取りで外野へ回ればいいかというシミュレーションに悩む男が出てくる。そんなの意識する必要ないのにと思うのだが、この男には重要な問題らしい。自意識過剰と言ってしまえばそれまでなのだが、どのような表情と動きで移動するかなんていうものこそ、まさに演劇の世界。いろんな演技パターンを試す役者の世界だ。

 スナックのママ相手に、オヤジギャグを飛ばす男ふたりが喧嘩になるコント。それぞれにオヤジギャグに関する一過言を持っていて、相手のオヤジギャグへの批判の手を緩めない。どう転んだってオヤジギャグはオヤジギャグ以上のものではないのだから、あまりにも不毛な論争で、端から見ているとバカらしい光景に思えるのだが、当人同士にとっては、それがいかにも重要なことに思えているらしい。こういうことってほかにもありそう。人間、つまらないことを大切にしていて、それは他人からすれば滑稽でしかない。

 バルーンアートの大道芸人が風船を膨らませようとすると、吹矢で風船を割る男がいる。この男はコンビニ店員で、以前この大道芸人からクレームをつけられたことがあり、その恨みによる復讐。そのクレームも、どうでもいいようなことだったらしい。つまらないことでお互いが意地になり、大人げないことをする。こういうのもあるよなぁ。

 彼女が忘れて行ったケータイに着信があり、出てみると彼女の元カレだったというコント。この元カレが、電話に出ている相手が、知ってか知らずか元カノと思い込んでいる風で、ヨリを戻そうとする。しかもこの男、どう考えても自己チューなやつ。とうしてこんなやつと彼女が付き合っていたのか理解できない。とんでもないゲスなやつで、今は別のカレがいますからと彼女のふりをして言うと、「そいつ連れてこいよ。一緒に笑ってやろうぜ」とくる。いそうだな、こういう人の心をどうでもいいと思っているやつ。

 一番好きなコントは、売れないバンドマンの夫を持ったOLが金持ちのボンボンの副社長からセクハラを受けるコント。どうやら、かもめんたるの岩崎う大が、売れないときに言われたことがヒントになったらしい。音楽やお笑いで食って行こうとしている人間に、「夢と目標をはき違えちゃいけないよ」なんて言ってくる人間。そんなカレを持った女性に「その夢、背負わなければならないんだな」なんて言葉をぶつけてくる。金も地位もとりあえず得て、安全圏にいるやつにとって、夢を追いかけている人間なんて非現実的で腹立たしいだけなんだろう。このコントが私の胸に一番突き刺さって来た。

 ちなみにタイトルの抜旗根生(ばっここんせい)は、たいした意味は無く、最初のサーカス団のインタビュー・コントで団長が入れている入れ墨。『おそ松くん』の中で、ハタ坊の頭の旗を抜いてみたら根が生えていたというギャグから来たもの。

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