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客席放浪記

桂雀々・三遊亭兼好二人会

2015年5月19日
北沢タウンホール

 三遊亭兼好と、数年前から住居を関西から東京に移して、東京を中心に活動している桂雀々との二人会。まずはふたりの挨拶を兼ねたトークから。「東京のどちらにお住まいになったのですか?」との兼好の質問に、「個人情報ですのでお答えできません」との雀々だったが、商店街のある昔ながらの街らしい。以前の東京だったら関西弁を喋るおっさんが商店街にやってきて買い物をしたら違和感を感じられただろうが、最近は東京人もあまり気にしなくなってきたようだ。なにしろ外国から来た人だって増えたしね。

 東京に住み着いて、フィットネスクラブに通っているという桂雀々。その昼間から暇を持て余した高齢者でいっぱいのフィットネスクラブでみかけたスケッチを語るマクラが楽しい。関西の芸人さんたちは、よく大阪のオバチャンの話をするが、こうやって聴いていると東京のオバチャンやオッサンもあまり関西人と変わらなくなってくる。噺は『くしゃみ講釈』。パワーで持って行く雀々だから、こういう噺はうってつけ。クライマックスのくしゃみの場面は、ヒックスン! フックスン!! イックスン!!! などさまざまなクシャミを連発してみせ、お客さんから強引に爆笑を引き出す。この手の、ともすると下品になってしまう笑いを、以前は東京のお客さんは嫌ったものだが、今は東京も生粋の東京人は減ってしまったから、こういう笑いにも違和感を感じなくなってきているのかもしれない。

 三遊亭兼好は、生まれ故郷の祭のマクラから『百川』。先月も柳家さん喬で聴いたが、この噺の中の百兵衛、私はさん喬の百兵衛を聴くと、いっこく堂の人形のキャラクターを思い出してしまうのだが、兼好のもそんな感じ。人間じゃないような特殊な生き物に思えてしまう。落語のキャラクターの中でも、こんな不思議なの人物は珍しい。

 仲入り後。三遊亭兼好は、住まいの足立区の住民のことをマクラで語るが、そんなキャラクター、百兵衛以上にいないでしょ。足立区民はそれじゃ、ほとんどのおっさんが刃物を持ち歩いていることになってしまうよ。アハハハハ。というわけで刃物繋がりで(強引だなぁ)『館林』。柳家喬太郎で何回か聴いたことがあるが、兼好もやるんだね。いかになんでも「ありえないでしょう」という噺だが、このバカバカしさを伝えられるかどうかが話し手の腕前。百兵衛といい、この噺といい、ありえないようなトンチンカンなキャラクターを可笑しく演じられる兼好は、いいな。

 トリの桂雀々は、博学で知られた桂米朝が、実は落ち着いた粗忽者だったというエピソードをマクラにして『手水廻し』。大阪から泊まりに来たお客さんに「ちょうずをまわしてくれ」と言われて、お寺の和尚さんに、「ちょうずをまわす」とはどういう意味かと訊いた宿屋の主人。知ったかぶりの和尚から、ちょうずとは長い頭だと図解入りで解説された返事を受け取り、長い頭の男に頭をグルングルン廻させる。もうこんな男は百兵衛以上のキャラクター。そんなやつぁ、いないよ。現実にいるわけないキャラクターが自然に出てくる。これが落語なんだね。

5月20日記

静かなお喋り 5月19日

静かなお喋り

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