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客席放浪記

キフシャム国の冒険

2013年6月8日
紀伊國屋ホール

 原発事故で避難区域に指定された区域に住み続ける主婦(高岡早紀)が、見知らぬ世界に連れて行かれて巻き込まれるファンタジー。原発事故というリアルな世界から、まったくの空想の国へというギャップが何の意味があるのか考え出すと、いくらでも深読みが出来そう。

 作・演出は鴻上尚史。この冒頭の現実世界の部分は別の短編として書かれたものなんだそうで、ひょっとすると別に意味があるわけでもないのかもしれない。

 狸に誘(いざな)われて、異空間のキフシャム国に着いた主婦は、そこの王子と狸と一緒に死者の国へ父に会いに行く。その冒険譚。こう書くとなんだか子供向けのような感じだか、ギャグがたっぷり入っていて大人が楽しめるファンタジーになっている。いや、案外子供も楽しんで観られるのかも知れない。キフシャムはローマ字に直してみると福島のアナグラムなんだそうだ。何か意味も持たせている気がするが、どうでもよくなってくる。あるいは親と子の問題が、王子と死んだ国王との確執、自分の息子が死んだことが受け入れられない母といったテーマで現れてきて、そういったものを描きたかったのかもしれない。でも、基本は楽しく見せるお芝居。なんとなく『オズの魔法使い』でも観ている気になるし、ミュージカルの苦手な私でも、何ヶ所かに挿入される歌や踊りも嫌いではない。むしろサントラ盤があるなら欲しくなったくらい。

 クライマックスの立ち回りでは、舞台上から本水の雨を降らせ、役者もずぶ濡れ。客席通路を花道として使うので、通路際に座っていた私は舞台から駆け下りてきた役者さんの身体から水が飛んでくる臨場感を体験できた。高岡早紀は黄色のロングコート。このコートが私の腕を撫ぜて行ったのもうれしかった。

6月9日記

静かなお喋り 6月8日

静かなお喋り

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