直線上に配置

客席放浪記

神保町こいはち(第一回)

2017年10月19日
らくごカフェ

 満席。女性客が多いのにも驚いた。
 これまだ私はどうも瀧川鯉八の落語の面白さがわからなかった。それは鯉八の落語が、今までの落語の文法から飛び出しているからだと思っていた。私がポカ〜ンとして聴いている周りで、若い人がゲラゲラ笑っている。それが理解できないで、これはどうも私の笑いに対する感覚が古くなってしまっているんだと思っていた。
 今回初めて、ほかに誰も出ない独演会に行ってみたのは、鯉八の落語をまとめて何席か聴いてみようと思たから。そうしたらようやく私にも鯉八落語の世界が面白く感じられてきた。これは大収穫。
 これまでも鯉八は[らくごカフェ]で独演会を続けてきたそうだが、今までは60分だったそうだ。今回からは仕切り直しで90分の独演会にすると言う。仲入りを挟んで正味ほぼ90分で、四席だった。

 一席目は人工知能のマクラなどから『科学の子』。博士の作り上げたロボット、ロボ八。しかし博士はロボ八の前に女性ロボット、ロボヨーコを試作していた。女性に疎い博士は、ロボヨーコから女性心理を学ぼうとするが、女性は悩み相談を持ち掛けたがる。しかし相手に答は求めていない。答はもう自分で出ているといった不思議な心理を持っていて、そのことをロボ八に話すと科学的知能ではまったく理解できないと言い出す。
 これは私は初めて聴いた。面白かった。鯉八のあの独特の語り口、リズムに慣れてしまえば、別にそんなに違和感は感じずに聴くことができる。男性にとっては理解できない女性心理を科学的な目で判定させようとしても、さらに理解できないという可笑しさ。これは新しい感覚。

 二席目は、100歳で亡くなった祖父がプレイボーイで、奥さん以外にたくさん女がいたというマクラから、私も一度聴いたことのある『長崎』
 長崎に旅行に来たカップル。男は彼女に長崎を案内するが、ちゃんぽんもトルコライスも、食べようとすると、男に元カノと一緒に食べた記憶が蘇り、ついついそのときのことを口走ってしまう。今の彼女はそのことが気にくわない。そんな長崎観光を続けていたカップルだったが・・・。
 なんだろう。以前聴いた時よりずっと面白く感じた。鯉八の落語にようやく慣れてきたのかもしれない。いままでは寄席や何人も出る会で一席だけ聴いていて、ほかの人の落語とあまりに違うので、鯉八だけが浮いてしまって入っていけなかったのかもしれない。一旦鯉八ワールドの落語に入ってしまうと、そんなに変だとは思わなくなってくる。

 三席目のマクラで鯉八は、ライザップを始めるつもりだと言った。現在100kgある体重を10kg落としたいとのこと。そのためにライザップ二ヶ月のコースをやろうと決心したそうだが、そのためには30万円必要だそうで始めるのは来年になってから。二ヶ月の成果をぜひ見てみたい。
 『人生あやとり』は、一昨日の『しゃべっちゃいなよ』でネタおろししていたもの。偉人はみんな、逸話や名言や決めのポーズを持っているものだと言い出す男の子。偉人になるにはまず逸話を作らなきゃと本末転倒っぽい主張するのを聞いている友人は、あやとりが大好きでいつもあやとりをしている。
 オチが突然やってきて、一昨日はポカンとしてしまったのだが、あやとりのをしている格好と、ある実在だった人物の得意のポーズがそっくりというオチ。これ、面白いよ。これでもっとあの人物に声や表情まで似せられるともっと面白いかもしれない。

 四席目はなんと古典。鯉八の古典なんて初めて聴く。
 前座時代にある古典を習おうとしてのしくじり談で沸かせ、隅田川馬石に習ったという『締め込み』。今までいろいろな人の『締め込み』を聴いてきたが、これは新鮮だった。
 噺をあまり崩さずやっているのだが、まったくの鯉八の口調、リズムになっていて引き込まれてしまった。こうやって聴くと、このもう聴き飽きたような噺が、やけに面白く感じられた。いいよ、とてもいいよ、この『締め込み』。

 最後は足が痺れていたみたい。ライザップで痩せよう。

10月20日記

静かなお喋り 10月19日

静かなお喋り

このコーナーの表紙に戻る

トップ アイコンふりだしに戻る
直線上に配置