国立演芸滋養三月上席 2016年3月10日 平日の昼の部、さすがに私を含めて年寄りばかりの客席。 開口一番前座さんは三遊亭わん丈で『出来心』。前座修業頑張ってね。 初音家佐吉。『堀の内』と、立ち上がって踊り『せつほんかいな』。二ツ目もいよいよ九年目。口調もしっかりしているし笑わせ方もうまい。踊りもきれいだ。 隅田川馬石が、そばに関するマクラを振っている。「私ね、今日はそばの噺がやりたいんですよ」と『時そば』。この人、この噺を顔の表情をうまく使っている。そばがなかなか出てこなくて待っている間の様子を台詞なしで顔の表情だけで伝える。汁を一口飲んであとの、まずそうな顔とか、腰がなくねちゃねちゃのそばを食べる表情とか、こんなに顔芸で見せる人だとは今まで思っていなかった。また、「一杯で勘弁してくんな」の言葉が、もうこんなもの食べたくないという意味が感じられる言い方なのも可笑しい。 柳家紫文。うわー、なんだか久しぶり聴いた気がする。『長谷川平蔵市中見回り日記』健在。薬屋、横綱(二種類のパターン)、それに隠れキリシタンなど。やはり楽しいね、このネタ。また新しいのが入っていたし。 入船亭扇辰は『夢の酒』。おかみさんがいい気持ちで寝ている亭主を優しく起こす言葉遣い、そのあと嫉妬して取り乱す様子、お義父さんに接する態度と、見事に演じ分けるのが素晴らしい。馬石といい扇辰といい、新しい世代の落語は芸が細かくなっているようだ。 仲トリは、柳家小里んの代演に古今亭志ん橋で『鮑のし』。持ち時間も多いのか、吾妻橋のくだりから入った。この部分は寄席サイズではカットされてしまうんだろうなぁ。「津波」も「ツマミ」に変えて、配慮しているように感じた。そういえば明日は3.11だ。 仲入り後に花島世津子のマジック。『オリーブの首飾り』をBGMにして、いかにもなスカーフのマジックなどが始まったので、「またか」と思ったが、客席から男性を呼んで始めたマジックには驚いてしまった。助手に首に太いロープを巻いてもらい、手を後ろ手に縛った上に椅子に座って、さらに椅子に縛り付けてもらう。舞台に呼んだ男性には目隠しをして椅子に座ってもらい、一緒に四方を隠した幕のなかに入る。幕が除かれると、男性の着ていた上着を着た花島が以前のように縛られて座っており、しかも縛られた下に男性の着ていた上着を着ているというもの。縛りのトリックは目の錯覚として、どうやって男性の上着を抜き取ったのかが不思議。男性に両手を胸にクロスして触れさせた姿勢をとらせたのだが、あの姿勢だと上着を抜き取りやすいのだろうか? 身体にピッチリした上着を着た人ではなくて、ゆったりした上着を着た人を選んだのもその理由があるのだろうか? 金原亭馬の助は『権兵衛狸』。狸の噺は『狸札』や『狸賽』よりも、この噺の方が私は好き。いたずら好きの狸が、恩返しに来る狸よりも、なぜかかわいく感じるんだなぁ。噺のあと、この人お得意の百面相。 ロケット団の漫才。清原の覚醒剤使用事件やら、ジャイアンツの野球賭博問題のブラックなネタをやって、「スポーツの話題と言えばオリンピック。国立・・・演芸場に屋根がないという」「演芸場には屋根あるよ。よく見ろよ」「東京オリンピックのあと、2014年の開催地は北京に決まったそうで、中国では国技の練習を強化しているみたいですよ」「中国の国技ってなんだっけ?」「爆買い」。うそうそ、まだ2014年の開催地は決まってないし、北京はやったばかりだからありえないでしょ。アハハハハ。 トリは五街道雲助で『厩火事』。25分たっぷり。 平日の昼下がり、国立演芸場のゆったりした演芸、いいものだ。屋根はあるし。アハハハハ。 3月11日記 静かなお喋り 3月10日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |