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客席放浪記

小さんひとり千一夜 夏は大きいほらがいい

2015年8月24日
渋谷区総合センター大和田伝承ホール

 高平哲郎監修による『小さんひとり千一夜』。私は今年の春の会に続いて二度目。ひとり千一夜というくらいで、開口一番もなく最初から最後まで柳家小さんひとりの純粋な意味での独演会。

 一席目は『夏は青菜と鄙鍔と』と題された、『青菜』と『鄙鍔』を一席の中に盛り込んでしまおうという試み。『青菜』のお屋敷での隠し言葉の一件の直後に、植木屋さんが旦那に、「こんなことがありまして」と語りだすのが『鄙鍔』の前半。家に帰っておかみさんに隠し言葉の一件と『鄙鍔』の後半を話して最後に繋げる。春の会では『あたま山』をメインに持って来て、そこに『後生鰻』やら『疝気の虫』、さらには『長屋の花見』『花見の仇討ち』『野ざらし』まで散りばめるという賑やかさだったが、今回は実にシンプル。どちらかというと『青菜』にうまく『鄙鍔』を埋め込んだという印象。

 仲入り後は上方落語の大作『地獄八景亡者戯』。この噺、私が最初に聴いたのは、学生時代、関西出身の友人が、私が落語好きなのを知って「これ聴いてみて」と桂米朝のレコードを、うちに置いて行ったのを聴いたとき。レコード両面に渡って一席分が収録されていたのだが、正直言って「なにこれ?」という感想しか浮かばなかった。起承転結が感じられない噺が一時間以上ずーっと続いて行く。それまで聴いていた落語の概念には当てはまらない不思議な噺で、私は一度聴いただけでギブアップ。友人に感想を訊かれて、なにやらあいまいな返事をしたのを憶えている。この噺が面白いと思えるようになったのはずっとあとのこと。この噺は上方限定のようなところがあり、東京で演っているのは古今亭寿輔が『地獄めぐり』と題して、短縮した上に大きく作り直したものを寄席でよくかけているくらい。この日、一緒にいた友人に訊いてみたら「立川笑志はやってるよ」とのこと。東京の言葉でこの噺が聴ける機会はほとんどない。「この噺を演ろうとしてとにかく長いんで、つまらないところ、いらないところをカットして短くしようとしたら、何にもなくなっちゃった。途中で帰らなくちゃならなくなっても、まったく後ろ髪を引かれない噺です」と始まったこの噺。演者によって細かいアレンジはいくらしてもいいというルールがあるようで、小さん・高平版も時事ネタやら、東京落語界ネタやらがバンバン入って来る。途中五分間の休憩は、レコードのA面とB面をひっくり返すのに、しばしの間がある感覚。五分後に走るように高座に戻ってきた小さん、残り半分も突っ走る。結局正味70分超え。フルサイズを演じきった。「私、来年70ですよ」と言うのに、よくまあこのとりとめもなく続く長〜い噺をつっかえることなく憶えられるものだ。当代小さんの実力をまざまざと見せつけられた思い。

8月25日記

静かなお喋り 8月24日

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