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客席放浪記

柳家小三治独演会

2012年12月21日
銀座ブロッサム中央会館

 小三治の最近の独演会は、弟子ではない柳家一門の中から二ツ目がひとり出て、そのあと小三治二席というのが定番らしい。前に出る二ツ目はこのところ、柳家ろべいが気に入られているのか10月の浦安での独演会でも、ろべいだった。今日は師匠の喜多八ゆずりの『たけのこ』。

 柳家小三治一席目。自分の持っている自動車のナンバープレートの数字にまつわる話をマクラに、いつものようにゆったりと世間話でもするように始まる、この人独特のスタイル。いつの間にかリラックスしてこの人のペースにはまっている。小三治の落語を聴くというのは、そういうことなんだ。真剣に落語に向き合おうってことじゃない。小三治の落語の世界にのんびりと浸かろうってこと。これなんだよね、小三治のよさは。いわばリゾート落語。日常の慌ただしさから離れて、いっときを過ごす。こういう落語が実は理想的なんじゃないかという気がしてくる。
 「知らないのに知ってるふりをする。知ってるのに知らないふりをする。一番よくないのが、知らないのに知らないふりをする、というわけで」と『千早振る』に入っていった。ご隠居さんと八っつぁんの百人一首に関する他愛無い、知ったかぶりの噺。のんびりと小三治の語り口に付き合う。これぞ贅沢。

 仲入り後の二席目は、東京スカイツリーに馴染めず東京タワーの方がいいなんて事を言い出したかと思うと、それでもあれはパリのエッフェル塔の真似でしかないと言い出し、ふらふら話が揺れながら、やっぱり東京タワーはいいなんて結論になったり。ご隠居さんの茶飲み話に付き合っている感じがある。実際高座の前にある茶をときどき啜ったりする。そうだ今度から小三治を聴きに行くときは私もペットボトルのお茶を用意するか。
 その東京タワーから東京の街並みを眺めたという話から、蔵前のこと。そしてそこから『茶の湯』へ持っていく。東京タワーからの俯瞰から地上に降り立つうれしい入り方。
 こちらも、ご隠居さんの噺だ。『千早振る』の知ったかぶりのご隠居さんはまだ罪が無いが、こちらは人を巻き込む少々迷惑なご隠居さん。若い時から無趣味で働くだけ。芝居には行かない、温泉にも行かない、おいしいものを食べにも行かない。こんな人が隠居してしまうと何もやることが無い。
 思い込みの激しい人でもあり、自己流の茶道で、人を持て成しているつもりが迷惑をかけている。そんな人物を笑いにしながらも、小三治落語は、力の抜けた語り口で、どこか登場人物への優しい愛着を感じさせる。

 今宵はご隠居さん噺二席。小三治の隠居はまさに、「いるよね、そういう人」という気にさせるご隠居さん。こののんびりして、とぼけた味わいの隠居が描けるのは、やっぱりそれ相応の歳になってからということなのかもしれない。

12月23日記

静かなお喋り 12月21日

静かなお喋り

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