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客席放浪記

柳家小三治独演会

2013年8月14日
よみうりホール

 開演のベルが鳴り、前座さんがメクリを持って現れると、そこには、柳家三三の文字。ドーっと歓声が湧き、まだ本人が出てこないのに拍手が起こる。
 小三治の独演会には必ず前に一人、一門の人間が一席演るが、その日誰が上がるかは知らされない。三三が上がるという事はかなり珍しい。お客さんも三三が上がるのは意外だったのだろう。三三はすっかり人気者になった。
 三三は前置きも無く、スッと『しの字嫌い』に入った。この噺、理屈っぽい飯炊きの権助が出てくる噺で、意外と演じ手が少ない。談志が演っていたのを聴いた記憶がある。おそらく立川流あたりはよくかけているのではないか。尺も短いし、もっと寄席でかかってもおかしくないと思うのだが、やはりあの権助のキャラクターが嫌われるのかなぁ。

 ちょっとギスギスした噺のあとに出てきた柳家小三治『粗忽の釘』。そそっかしい男の噺も、小三治にかかると、どちらかというと間の抜けた男の噺に変化する。そしてこの男、噺の初めでは女房に風呂敷を持って来させ箪笥を担ぎ上げて亭主関白っぽいところを見せるが、どうも女房に抑え込まれているような感じがする。人にも「あっしの上に立とう立とうとして」と女房の愚痴をこぼす。まあ、こんな間の抜けた男に主導権を握らせておいたら、どえなるかわからない。このへんの女房の尻に敷かれた男の思いが小三治落語の面白いところ。

 仲入り後は、今度は浅草の奥山という地名に関する考察から始まってしまう。このへんのこだわりがまたいかにも小三治らしい。そこから奥山にあった見世物小屋の話になり『一眼国』へ。ここに出てくる香具師が、旅の六部に、何か見世物に使えそうなネタはないかと聞きだそうとするあたりの、香具師のケチっぷりが楽しい。儲け話を聞き出そうとするのに、刺身か天ぷらか鰻をご馳走すると言いだす。全部じゃなくてどれかひとつと切り出すあたりが、しみったれていて可笑しい。だから最後にこの香具師が酷い目にあっても、聴いている側は「ほらみたことか」と思うことにしかならない。

 今日は、お客さんが楽しみにしている、長いマクラは無し。二席演って、トータルでも正味一時間ちょっと。なんとなく物足りない気がしないでもないが、まっ、たまにはいいか。『一眼国』は小三治以外で演る人も少ないし、三三で『しの字嫌い』が聴けたんだし。

8月15日記

静かなお喋り 8月14日

静かなお喋り

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