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客席放浪記

柳家小三治独演会

2016年7月29日
松戸市民会館

 小三治の独演会は必ず前方に自分の弟子や孫弟子が上がるのだが、今日の柳亭こみちは、マクラのあとの『金明竹』がやけに長く感じた。寄席では前座や二ツ目あたりの定番噺で、寄席サイズでテンポよく話せば15分で収まる。それが今日はなぜか間延びして聴こえてしまった。『金明竹』なんていう噺は、もう聴き飽きている観客も多い。テンポよく、さっとやらないと退屈してしまう。なにか特別な工夫であれば別なのだが普通にゆったりとやられてもなぁ。これはもう飽きるほど落語を聴いてきた私の問題であるのかもしれないけれど。

 柳家小三治は、いつもの長いマクラを、今日は何を喋ったらいいか考えないで上がってしまったらしい。どうも今週末に行われる都知事選のことを喋りたかったらしいのだが、何回か喋りかけては「これは何か言うと選挙違反になりかねないから」と言葉を濁してやめてしまう。ポケモンGOやケータイのことにも触れたが、あまり話が広がらない。結局30分間、迷走を続けて、夏、怪談といった話題に落ち着き、『お化け長屋』に入って行った。小三治のマクラというのは、小三治ならではのものの見方の面白さが魅力で、聴く方もそれを期待して聴きに来ているようなところがあるが、今日のマクラは30分間、時間を無駄にしてしまった感があった。小三治でも出来不出来はあるのだろうが、こんななんの記憶にも残らないマクラだった小三治は初めて観た。
 小三治にかかると普通のサイズの噺も長くなる傾向がある。このゆったりした感じがとぼけた味わいになって面白いのだが、今日の『お化け長屋』にはマクラに続いて、面白みが感じられない。この噺なんかも人によっては20分あれば収められるような噺なのだが、小三治にかかると30分。それも何か小三治らしい工夫があれば面白く聴けたのだろうが、なんだか普通にやってるなぁという印象しか持てなかった。これもまあ『金明竹』ほどではないにしろ、さんざん聴かされている噺なので、これまたこちらの問題なのかもしれないのだが。

 仲入りがあって、終演予定時間まであと25分。これは二席目はマクラなしで、30分程度の噺を一席というところかなと思っていたら、始まったのは『粗忽長屋』。こちらは小三治らしい面白さにあふれていた。ほぼ最初から最後まで、とぼけた味わいで押し切るネタのせいもあるのだろう。打って変わって、とても面白い。私はこの噺は、それほど好きになれないのだが、小三治が演ると、同じ噺かと思えるくらい面白い。しかもこの噺、あまり引っ張ると面白くなくなるのだろう。小三治がやっても、やはり15分に欠ける程度。まだ時間はあるのだから、もう少し長い噺でもよかったのだろうが、終演予定時間より10分短く会を終えた。仲入りを入れたあと15分で終演になってしまって損した気分にもなったが、これはこれでよかったのかもしれない。なんでも長ければいいというものじゃない。

7月30日記

静かなお喋り 7月29日

静かなお喋り

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