直線上に配置

客席放浪記

2012年2月16日『九雀亭』(亀戸文化センター・六階和室)

 にんにく注射なるものがあるそうで、「ちょっと風邪ぎみだったり、疲れが溜まったときなどには効果がある」と前田一知。違う患者さんと間違えられて、女性ホルモン注射を打たれそうになったエピソードから『犬の目』。桂枝雀の息子さんだがプロの落語家ではない。しかし実に楽しそうに落語をする人だ。

 米永邦雄がコンピューターの将棋ソフトと対戦して敗れたという話題をマクラに、桂九雀の一席目は「もう人間は知能ではコンピューターにかなわないのではないか。勝てるとしたら情の部分」と『厩火事』へ。とにかく髪結いのおかみさんがカワイイ。それでいて茶碗をわざと割るところなど、わざとらしさが無いのが、かえってドキリとさせる演出。いいなあ。

 小宮孝泰版の『寝床』は趣味を生かして、義太夫を狂言に変えてある。自宅を改装して狂言の舞台をこしらえてしまう旦那という設定も凄いね。「客席に座布団をたくさん並べておいてくれたかな? 二枚? なんで二枚しか出さない! 駆け落ちの相談じゃないんだから!」 嫌がられているのも知らないのが当人の旦那。一生懸命 ひとりで二人分の役をこなして狂言を披露しても、お客さんはみんな寝てしまう。怒った旦那「一遍でいいから、こっちにきてやってみろ!」 それに対して「一遍でいいから、こっちに来て聴いてみろ!」は真実だけど、笑っちゃうやね。こんなことを言われて半泣きになって寝てしまう旦那もカワイイけど。

 仲入り後に上がったのが林家ひろ木。師匠の林家木久扇のエピソードなどで笑わせたあと『大安売り』。相撲取りが負けた言いわけを語る噺なのだが、ひろ木らしい工夫があって楽しい。「相手は千代の富士の愛弟子、武富士。引き落としが巧くて負けました」 「対戦前に食べたものがいけなかった。スモークサーモン。相撲喰う臭いもんといいまして、腹を壊して負けました」

 桂九雀の二席目は新作『朝抹茶』。京で尾張から来た客人をもてなすのに、「京料理が食べたい」を「器用な料理が食べたい」と誤解して、尾張の人間は味噌が好きだという概念から西京味噌で作った豆腐田楽、鰹のたたきに白味噌をつけたもの(味噌カツならぬ味噌カツオ)を出すなんていうのは、名古屋食文化に興味がある私は大笑い。尾張には朝マックならぬ朝抹茶があり、抹茶に、ご飯、味噌汁、漬物が付くなんて、モーニング・サービス事情が出てくるのも可笑しい。

 帰り際に、小宮さんに挨拶。今回も喬太郎師匠に見て貰ったそうで、ダメ出しの部分の興味深い話が聞けた。そういえば、私はこのところ喬太郎の『寝床』を二回続けて聴いている。小宮さんの話を聞くと喬太郎の『寝床』は新たに「なるほど」と気が付くことが多い。

2月17日記

静かなお喋り 2月16日

このコーナーの表紙に戻る

トップ アイコンふりだしに戻る
直線上に配置