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客席放浪記

特撰花形落語会
喬太郎・三三・白酒三人会(Theater1010)


 昼夜二回興行の夜の部。満席だ。これだけ広いホールをこの三人でいっぱいに出来るのだから人気のほどがわかる。別にテレビで売れているわけでもない三人。それでこれだけお客さんが集まるのだから、お客さんは実力を知っているといえる。本当は喬太郎ひとりでもいっぱいに出来るのではないかと思うのだが、喬太郎はこういう大きなホールでの独演会を拒否しているらしくて、そこが喬太郎らしいとも言えるのだが。

 開口一番前座さんは、林家木りん『つる』。前座修業頑張ってね。

 まかしょの出囃子が流れる。へえー、柳家喬太郎からかぁ。前座さんが『つる』をやったので、ひょっとしたらと期待が高まる。アレでくるのではないか。
 「昼の部はトリをやらせてもらいまして、古典落語をしっかりやりましたところ、寝ているお客様もおりまして」と、ライヴハウスに行ったというマクラを長々とやり始める。ということは今日は短い噺だなと想像すると、やはりアレだろう。
 マクラがキャバクラの話などに移行し、これはますますアレだなと思えてくる。
 と、やっぱり入った。『極道のつる』だ。もうドカンドカンと笑いが炸裂する。落語好きの親分が鉄砲玉のバカに『つる』の噺を教える爆笑ネタだ。古典落語の『つる』を改作しただけと思われるかも知れないが、実によく細部まで作り込まれた噺。それにやはり喬太郎の人間の観察眼と表現力だろうなぁ。親分は親分、カシラはカシラ、チンピラはチンピラの言葉遣いや態度が徹底的に模写、カリカチュアされている。

 仲入りを挟んだとはいえ、喬太郎の爆弾のような落語に、あとの二人は割を食ってしまったようにみえる。まあ、やったもの勝ちだが。
 桃月庵白酒は、出待ちの落語ファンを三つに分類してみせた。一つ目は落語家を神様のように思っている人たち。二つめがアイドルと勘違いしている人たち。そして三つ目が珍獣のように思っている人たち。「私なんかは最後の部類ですね。『あっ、ちょっと頬っぺた触ってもいいですよね』何て言って本当に触ってきますからね」 珍獣扱いでも人気があればいいやね。
 噺は『首ったけ』。客を邪険にした花魁が仇を打たれる噺だが、たとえ珍獣扱いにする客でも邪険にしないように。

 神様、アイドル、珍獣に今日の三人をあえて当てはめるとすると、当然白酒が珍獣で、人気者の喬太郎がアイドル、そして古典落語をキッチリの柳家三三が神様ということになるのかも。
 三三はマクラも入れずにスッと『三味線栗毛』へ。角三郎と錦木の楽しいやりとりと、出世したあとの角三郎との再会を情感たっぷりに。

 アイドル、珍獣、神様。こりゃ、お客さんでいっぱいになるわけだ。

6月3日記

静かなお喋り 6月2日

静かなお喋り

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