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客席放浪記

ザ・きょんスズ

2013年4月11日
ザ・スズナリ

 緞帳の無い、ザ・スズナリ。暗転すると高座には柳家喬太郎がすでに座っている。ニコリともせず真面目な顔でジッとしている。と、前座さんが、「寄席囃子教室を始めます」と言うではないか。何事かと思ったら、「まずは一番太鼓」の声に、喬太郎は大きく膨らんだ腹を突きだし、それを太鼓に見立てて腹鼓。場内は大爆笑だけど、本人はニコリともしないで腹を叩き続ける。宴会芸だね。

 二ツ目昇進して5ヶ月の入船亭小辰。忙しい前座生活のあとは暇な毎日が続くのが二ツ目の期間。「暇で暇で」とマクラでは口にはしているけれど、本当はこの二ツ目の時期が芸を磨くのに一番忙しいに違いない。今日は『鈴ヶ森』。これ、演る人増えているよなぁ。今、流行りなんだろうか? 笑いが取れる噺だから営業にも向いているんだろうなぁ。

 柳家喬太郎も、この日のゲスト林家正蔵も芝居好き。それも歌舞伎ではなくて小劇団。ザ・スズナリにはよく観に来るが楽屋に入るのは初めてというふたりは大喜びのようだ。
 「畳敷きの楽屋でしてね、床にアイロンの焼け焦げのあとがあったりして、どこの劇団だろうなと思ったりして」
 そんな劇場での一席目は『按摩の炬燵』。寒〜い季節の商家の使用人、寒くて寝られない。炬燵か行火でもと進言するも「花が咲きゃあ、暖かくなるんだ」の一言。それで按摩さんに酒を飲ませて身体を熱くして炬燵代わりにみんなして按摩さんの体に足を押し付けて寝ようという、なんともひどい噺なのだが、按摩さんが酒を飲む場面がいわば一人芝居。なるほどうまい噺を一席目に持ってきたものだ。一般の落語会ではかけにくい噺でもあるし。

 ゲストの林家正蔵。「よく、さん喬師匠や喬太郎さんに噺を教わることがあるんですよ。それがウチの一門なんかと教え方が違う。ウチはどこか緩いところがあるんですが、あちらは落語に対する情熱のようなものを感じますね」
 「さん喬師匠に『替り目』を教わった時には、最初のところで車夫が『大将!』と声をかけるところでダメ出し2時間。夜なんだから、夜らしく『大将!』。良くなってきたと言われたら、今度は車夫の哀愁が入ってないって」 これはまさに芝居の稽古をつける演出家と同じだね。
 「喬太郎さんに『母恋いくらげ』を教えてもらった時は、タコの仕草にこれまた2時間。タコの気持ちになってないって。タコらしく柔らかく柔らかく。やっと形になってきたら、今度は吸盤の感じが出て無いって」
 この日のネタは、そのどちらでもなく、『松山鏡』

 仲入り後、柳家喬太郎の二席目は『すみれ荘二○一号』。落研の噺だからこれも一般の落語会ではかけにくいらしい。久し振りに聴いた。いわば喬太郎の原点でもあるんだろうな。

4月12日記

静かなお喋り 4月11日

静かなお喋り

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