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客席放浪記

爆笑落語会

2017年8月30日
日本橋公会堂

 開口一番、前座さんは桂伸しん『古着買い』という噺は初めて聞いた。登場人物も三人になるから、前座さんとしては、ちょっと高度なネタ。しかもこの人、伸治の弟子になったのは、今年一月というのだから驚き。『古着買い』はもともと上方のネタだそうで、買い物上手の兄ィと買い物にでかける導入部は『壺算』のよう。古着屋に入って綿入れを買うのに、常識はずれの値段で買おうとして、古着屋の怒りをかってしまう。あまりに無茶な値切り方も喧嘩を売っているとしか思えないが、古着屋の主人の物言いも度が過ぎている。カッとなった兄ィが啖呵を切るところは『大工調べ』に似ている。この啖呵の言い立てが見事。
 なんか噺としては、嫌な噺だね〜としか思えないのだが珍しい噺が聴けたし、なかなか達者な前座さんを観ることができてよかった。

 昔々桃太郎は、去年も今頃話していた、高校時代に夏の軽井沢のホテルでアルバイトしていた時の話がマクラ。それでも内容は去年のときのものとは違う話。有名人がたくさん泊まる有名なホテルだったらしい。「松本清張も泊まりに来てました。食事している姿を見て、あの人とキスするのは嫌だと思いましたね」。あ〜あ〜、言っちゃった。
 そこから珍しく『裕次郎物語』。以前は割とよく遭遇した噺だが、最近しばらくオクラにしていたらしい。田舎育ちの自分と、湘南育ちの裕次郎の違いを対比して笑いに変える。そうか、桃太郎が言うように、湘南といえば、石原慎太郎、石原裕次郎、加山雄三、桑田佳祐って系譜になるのか。
 
 桃太郎は1945年5月生まれ。団塊の世代だが、フライング気味といったところか。。石原裕次郎に憧れた世代なのだろうが、私よりも上の世代。私が映画を見るようになったころの裕次郎はもう私には「カッコイイ」とは思えなかった。『太陽にほえろ』のころになると、ただの太ったおっさんにしか見えなかったが、これはエルビス・プレスリーと同じ。さっぱりよさがわからなかった。加山雄三の方が私にはかっこよくみえた。歌も歌える、作曲もできる、ギターも弾ける、それにスポーツ万能。『嵐を呼ぶ男』でヘタクソなドラムを叩いて歌う石原裕次郎は私にはまったく受け入れられなかった。

 漫談風の軽い噺をしながら桃太郎は「あとの二人が本格派だから」と言っていたが、次に上がった三遊亭遊雀、「本格派と言われるとプレッシャーを感じてしまって、いったい何の噺をすればいいやら」と『風呂島』に入った。
 熊さんのおかみさんに、押し入れに閉じ込められた形になっている若い男を救出してくれと頼まれて出掛ける兄ィ。ペロペロに酔っぱらっている熊の言うことは、おかみさんとはかなり違う。熊の表現するおかみさんは、ドスの効いた男みたいな性格。「両方の話を聞いてみないとわからないものだ」

 柳家喬太郎が、二ツ目時代に作って一度だけやって掛け捨てにしたという噺を始めた。登場人物の名前はみんなロシア人の名前なのだが、噺は『風呂敷』。クローゼットの前に座り込んでいる男の頭にピロシキをかけて・・・。アハハハハ。.
 『まんじゅうこわい』を始めた。喬太郎の『まんじゅうこわい』を聴くのは初めて。こんなどこででも聴く噺も喬太郎にかかると、いろいろと入れ事も多く楽しい。
 まんじゅうが怖いんだと告白した途端の尋常でない怖がり方も新しい。まんじゅうを山と積まれて、「どうしよう。消しちゃえばいいんだ。どうやって消す。食べちゃえばいい」も上手い。
 なかには、まんじゅうだけでなく、ひよこや月餅、ピロシキまで入れたやつがいる。「ひよこは頭から食べるのは可哀想だし、尻からは汚い」にも大笑い。月餅は崎陽軒の黒ゴマのかかっているやつがおいしいなんて情報も入る。
 と、ここで新展開。まんじゅうを喉に詰まらせた男がバッタリと倒れてしまう。心配してやって来たほかの面々がお互いに、お前のせいだと罪の擦り付け合いを始め、それぞれが怖いものだと思っている、ヘビやカエルやクモやアリやウマが現れて、次々とショックで死んで行ってしまう。ヘビはおそらく落語史上初めての帯を使っての芸。
 いや〜、いいものを観た。なんでも今年の夏の始めごろからかけている『残酷なまんじゅうこわい』というネタだそうで、「今、やっていて一番楽しい」んだそうだ。

 仲入り後、いつものトークショー。桃太郎が前の方に座っているのは喬太郎目当ての常連さんだと語り、喬太郎に「どう思うか」と聞くと、「志ん朝師匠がよく、どこに行っても同じお客だ、と嫌がってましたね」と言い、喬太郎自身はどうなんだと深く聞かれると、「一部の方を除けば、ありがたいことだと思っていますと」と優等生的発言。
 そのあとは『裕次郎物語』に即して、自分が憧れていた人の話題。主に女性アイドルについてにの話に終始した。
 喬太郎、遊雀とくれば、あの11年前の騒動について触れるのかと思ったら、あえて避けた様子。もうそのことは話題にしないことにしたのかもしれない。

8月31日記

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