柳家喬太郎トリビュート 2018年3月17日 なかのZero小ホール 落語が好きで、喬太郎が嫌いな人はいないだろう。それほどみんなに好かれているし、一度ハマると、ついつい追いかけたくなる。ちょっと中毒性がある。今までにたくさん作った新作は喬太郎らしいもので何度聴いても面白い。古典も喬太郎ならではのアプローチを入れて、新しい解釈のものにする。マクラでやる漫談は、まさに喬太郎ワールド全開で、これだけ聴いていてもいつまでも飽きない。 今の時代に生まれて、喬太郎の落語がと共にいられるというのは何と幸福な事か。それだけ喬太郎という人の存在は大きい。喬太郎がいなくなったら、その喪失感は計り知れないだろう。 それでは喬太郎の落語を受け継ぐ人がいるかというと、これがまた難しい。喬太郎の落語は喬太郎という人間の面白さでもあって、他人がやっても、なかなかその面白さは伝わらない。喬太郎の新作を別の噺家がやることもあるが、それはその素材を基にして、その人なりに作り替えないと面白くならない。それだけ喬太郎という人の個性は強い。 この番組は、喬太郎作品を愛する人たちの会。 開口一番、前座さんは春風亭一花。二ツ目昇進が決まったとの挨拶に拍手が沸く。 聴きなれた前座噺『道灌』だが、女性の声で聴くとまた新鮮。 柳家わさびは、喬太郎が学生時代に作った『純情日記 横浜編』。まだ携帯電話なんてなかった時代の噺。女の子に電話をかけるには家庭の固定電話に電話するしかなく、家族の人が出てしまうと気まずい気持ちになった、そんな時代。わさびはおそらくギリギリそんな時代を経験したかもしれない。 ところどころ現代的なギャグを入れていたが、基本、元の落語に忠実。喬太郎だと気が弱くて照れ屋な主人公が、それでいて大胆な感じになる。それが喬太郎の地なんだろう。わさびだともっと気が弱そうな感じ。その辺をもっと強調すると、わさびなりの『純情日記 横浜編』になりそう。喬太郎になる必要はないんだから。 喬太郎の新作のなかでも、かなりぶっ飛んだ噺の部類になる『諜報員メアリー』を講談にしたのが神田鯉栄。よりによってこの噺を選ぶかねと思うのだが、あのけたたましいメアリーをやりたかったに違いない。やはり女性がメアリーをやる、しかもあの利鯉栄だと、声の調子が高いだけあってけたたましさは倍増。ただ、落語を講談にした時点でテンポが違ったせいか、なんとなく間延びした噺になってしまった印象がある。もう少しポンポンポンと噺を進めれば、もっと面白くなりそう。 玉川奈々福は、以前『喬太郎アニさんをうならせたい』で作った『池袋の鬼夫婦〜ウルトラ風味〜』。一生懸命作ったのに、あのときにしかかけられないような内容だったので、掛け捨てになってしまっていた。もちろんこれは『仙台の鬼夫婦』が下敷きになっている。『仙台の鬼夫婦』が妻の長刀の腕前に敵わない夫が、江戸に武者修行に出る噺。『池袋の鬼夫婦』は、まったく笑わない妻を持った落語家キョン太郎が、なんとか笑わせようと、キョン太郎が好きなウルトラマンの生みの親円谷英二の生まれ故郷福島に落語の稽古に出掛ける噺。元ネタを知っているとより楽しい。曲師は沢村美舟。 トリに上がった柳家喬太郎。池袋のマクラから、おお、これは『針医堀田とケンちゃんの石』(結石移動症)だ。久しぶりだな〜。もちろん『ハリー・ポッターと賢者の石』というタイトルをもじったもの。昔からの喬太郎ファンは話し始めたところからニヤッとし、堀田という針医者が出てきたところで気が付いた人がクスクス。そしてオチで気が付いた人の爆笑。昔からのファンも、最近聞き出した人も、みんな喬太郎が好きなんだ。 3月18日記 静かなお喋り 3月17日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |