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客席放浪記

ロンサム・ウエスト

2014年5月23日
新国立劇場・小劇場

 私は男兄弟がいないので、兄を持つこと、弟を持つことの実感がわからない。でも、別に欲しいと思ったことも無く、いたらいたで、うっとうしく思ったような気がしてならない。やたら親や他人から兄弟を比較されるだろうし、それは嫌だなと。それに自分とよく似た男がいるというのも、それはそれで気味悪いかなという気もする。
 友人関係で男兄弟がいる人を見ていると、あんまり兄弟が仲良しというのも見たことが無くて、どちらかと言うと仲が悪いか、お互いあまり干渉しないかの、どちらかのような気がする。

 『ロンサム・ウエスト』の兄弟、コールマン(堤真一)とヴァレン(瑛太)はとてつもなく仲が悪い。ふたりとも独身で同じ家に住んでいる。そんなに仲が悪いなら、どちらかが家を出て行けばいいように思うのだが、何か事情があるのだろう。

 どうやら母親はすでに亡くなっていて、父親は銃の暴発事故で死んだばかり。ところがどうもこれも兄のコールマンが殺して、事故だということにしたらしい。知っているのは弟のヴァレンだけ。兄の弱みを握っていて優位に立とうとしているのかもしれない。それなら警察に届け出て刑務所送りにすればいいのに、それもしない。

 ふたりはひとつ屋根の下で、何かというと罵り合う。翻訳劇だが台詞の翻訳が、現代の日本の言葉にかなりうまく置き換えられている上に、演出も現代を意識的に取り入れているようで、「てめぇ、ぶっ殺してやる」なんていう台詞でも、やけにリアル。

 客席から観ていると、やはり問題は兄のコールマンにあり、これがもうしょーもない兄貴。あまり働きも無いみたいで、弟の酒をくすねて飲んだりしている。弟は、そこそこ金を持っているらしいのだが、どこか子供っぽいところがあって、ポテトチップスをたくさん買い込んできたり、宗教のフィギュアをコレクションしたり。それをまた、すべて兄が破壊する。

 この村にやってきた神父が、どうやら殺人が起こっているのに、当の息子たちも村の人たちも、知らぬふりなのに絶望して自殺してしまう。神父の残した言葉に兄弟は反省して、お互いを許し合おうとするのが、この芝居の後半部分。過去に起きた事件に対してお互いに謝罪しあうのだが、それも謝罪ごっこになっていく。果てはまた殺し合い寸前。

 それでも兄が、外に飲みに行こうと誘うと、弟も遅れて付いていくところで芝居は終わる。この弟の最後の台詞が意味深で、このふたり、いがみ合っていながら、弟はどこか兄を慕っているのではないかと思えてくる。

 自分に兄や弟がいたら面倒だろうなと思う反面、ヴァレンみたいな弟がいたら、それはそれで面白かったかもなと思う。コールマンみたいな兄はぜってぇー、マジで超やだけど。

5月24日記

静かなお喋り 5月23日

静かなお喋り

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