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客席放浪記

神田松之丞 ひとり天保水滸伝

2016年6月4日
紀尾井小ホール

昼の部
『相撲の啖呵』
『ボロ忠売り出し』
『笹川の花会


夜の部
『鹿島の棒祭り』
『潮来の遊び』
『三浦屋孫次郎の義侠』+α


 神田みのり『寛永宮本武蔵伝 狼退治』のあと、神田松之丞が高座に上がり、「二日前から声の調子が悪い」と、ちょっと不安なマクラ。それでもこういうのはこの人の目くらましのようなことも多いから大丈夫だろう。

 笹川の繁蔵と平手造酒の『天保水滸伝』は、映画やドラマにはなっているが、講談ではほとんど聴いたことがなかった。実は知っているようでいて、あまりよく知らなかった噺。山田風太郎の『武蔵野水滸伝』は、ずいぶん前に読んだが、あれは風太郎流の変化球だから、あまり参考にはならないだろう。風太郎自身の自己評価も低くて、評判もいまいちなのだが、私はあれは面白く読んだけれどなぁ。

 昼の部、夜の部ともに、間に外伝となる『ボロ忠売り出し』、『潮来の遊び』を入れてアクセントを付けた。これがとても効果的に作用している。こうやって昼夜通して『天保水滸伝』を聴いていると、この噺、かなり辛い噺だということがわかった。同じ周りに好かれる任侠者を描いたものでも、陽の『清水次郎長伝』に比べると、かなり陰の部分が大きい。

 『鹿島の棒祭り』は、先日、玉川太福の浪曲で聴いたが、講談になると迫力がある。平手造酒が敵の用心棒を叩き斬ってしまう噺。松之丞のこの手のチャンバラは、実にリアルで、殺陣がキッチリと目に浮かんでくる。

 後半は、ただただ辛い。どんなに腕がたっても圧倒的多数の飯岡の助五郎の手下には敵わず、ついには卑怯な手口にかかって最後を遂げてしまう繁蔵。なんともやりきれなくなる噺だ。

 外伝の『ボロ売り出し』は、松之丞で以前に二回聴いたことがあったが、また聴いても楽しかった。『潮来の遊び』は、いわば『明烏』なのだけど、『明烏』を聴き飽きた私には、これは新鮮だった。

6月5日記

静かなお喋り 6月4日

静かなお喋り

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