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客席放浪記

春風亭百栄独演会
百栄ちゃんのターヘル・アナトミア(解体新書)


2015年7月22日
東京芸術劇場シアターウエスト

 開口一番前座さんは、三遊亭わん丈『不精床』。ところどころ変えてあって面白い。さすが円丈の弟子になっただけあって創作力がありそうだ。期待しちゃうなぁ。

 春風亭百栄の一席目は『アメリカアメリカ』。日系二世の料理番組。アメリカの伝統料理の作り方を紹介する500回目。アメリカアメリカはアイダホのポテトを使った、実にアメリカらしい料理なんだそうだ。材料は、じゃがいもに肉。肉は牛肉でも豚肉でもどっちでもいい。それに人参、玉ねぎは入れても入れなくてもいい。というところまではいいのだけど・・・。肉と野菜を鍋に入れて、砂糖、醤油、味醂、出汁を入れて煮込む・・・って、それ肉じゃがじゃないの! っていう噺。盛んに「それ、肉じゃがでしょ」と突っ込まれて、「アメリカの料理はせいぜい12個。500もあるわけないでしょ!」と逆キレするところが可笑しい。だろうなぁ。アメリカ人って、毎日おんなじようなものばかり食べてるってイメージだもんなぁ。

 二席目は古典『疝気の虫』。最近の噺家さんは熱演型の人が多くて、この噺なんかもリキ入れて演る人がいるけれど、とにかく落語って、ほとんどが元々バカバカしい噺。力抜いて演る方が聴きやすいし面白かったりする。百栄の良さは、このなんだか力が抜けた、とぼけた味。疝気の虫が腹の中で、O157やらノロウイルスやらカンピロバクターやらピロリ菌に出逢うなんてオリジナルのギャグも、百栄らしくて可笑しい。

 三席目、『お医者さん検定』。国家医師試験ではなく、お医者さんごっこ検定問題を解いていくという噺。すべて○×問題。お医者さんごっこというゲスい事を、クスクスと笑える一席にした。けっこう女性客も笑ってたね。

 仲入り後、高座に座るといきなり噺に入っていた。主人公が杉田玄白と話す。玄白の台詞はなく一人コントというスタイル。題して『玄白さん』。夏バテで身体の調子が悪い男が杉田玄白のところに行くと、それは腹を開いてみる必要があると盛んに薦められるというブラックな噺。相手の玄白が出てこないだけに、聴く側は玄白の反応を自分で想像して補うから楽しくなる。なんかカワイイ玄白がイメージされるなぁ。

 お囃子の恩田えりのコーナー。『茄子とかぼちゃ』を三味線を弾きながら歌ってから、茄子と言えば入船亭扇橋の掘り起こした『茄子娘』を思い出すと言って、先日亡くなった扇橋の想い出話。そして歌ってくれました。扇橋が『道具屋』の中で歌った『タコの歌』。そして『二人旅』の中で歌った『どうして』。とくに『どうして』を聴いた後、そのあと高座に上がった百栄も言っていたけれど、思わず涙が出てしまった。思えば入船亭扇橋って人も熱演タイプではなくて、フワフワとした、聴く側をリラックスさせる芸風だったよなぁ。

 今回の落語会は、医者、病気、健康といったものがテーマになっているようだけど、ここで古典がもう一席。『鼻ほしい』。三遊亭円生が得意にしていて、よく聴いた記憶がある。最近はあまり聴く機会がなかったかな。マクラのクスグリで、「外国へ行って梅毒と淋病両方貰って来ちゃった人がいて、これがいわゆるバイリンガル」には笑った。『鼻ほしい』は梅毒で鼻が無くなっちゃった侍の噺。声が鼻に抜けてしまうというのも力が入らなくて、百栄の芸風に合っているのかも。

 最後の噺は『フェルナンド』。なんと日本人が出てこない。サッカー・ヨーロッパリーグの試合中、シュートを打ってゴールした瞬間、審判員からオフサイドのジャッジ。オフサイドじゃないと主張する選手とそのチームメイト、審判員との会話だけで噺が進む。オーバーなジェスチャー、いかにも外国人らしい言葉の使い方。これはアメリカ生活を経験して、欧米人をよく観察していた百栄ならではの可笑しさ。誰にも作れなかった落語がここにある。

 いやあ、いい落語会だったなぁ。盛りだくさんだったわりに疲れない。これが百栄の持ち味なんだなぁ。

7月23日記

静かなお喋り 7月22日

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