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客席放浪記

月例三三

2016年7月14日
イイノホール

 月例三三、一時期よく通っていたけれど、このところ足が遠のいていた。やはり毎月というのに飽きてしまったのかもしれない。今月から半年間『嶋鵆沖白浪(しまちどりおきのしらなみ)』の連続口演。三三のこの噺、やけに評判がいいので、この機会に通う決心をする。イイノホールなら後ろの方の席でも観やすいし。

 入船亭小辰がマクラで学校寄席のことを話す。この手の体験談をマクラに持ってくる落語家は多い。小辰が学校寄席でやった小噺のエピソートのオチは、きっと作ったものな。落語教室のあとのお囃子教室も作為的だなあと思ったのは、太鼓は馬の皮でできているということを子供たちに教えたという、明らかに前振りをしっかり入れて『野ざらし』に入ったから。これはお客さんにも知っておいてもらいたい伏線。つまりこの前振りを入れたということは、サゲまでゆくということ。むしろ自然な流れかも。
 キチッとした語り口は師匠扇辰ゆずりの上に、師匠にはない明るさがある。小辰には期待しちゃうなぁ。

 柳家三三『嶋鵆沖白浪』は、仲入りを挟んで、今月は(一)と(二)。
 これから大作に入るというのに、三三は軽い乗りのマクラ。今年はやけに調子がいい贔屓の広島カープの話題。三三がカープファンになったのは昭和54年の、「江夏の21球」の日本シリーズ優勝ではなく、翌昭和55年の日本シリーズ優勝。昭和54年の三遊亭円生死去の時点では落語に興味がなく、落語に目覚めていたのは、翌昭和55年の林家三平死去のとき。だから自分の原点は昭和55年だと語る。昭和55年といえば、1980年。今からもう31年前ってことかぁ。
 まるで世間話でもしたあとのように、「お長いお噺ですが・・・」といかにも軽く噺に入って行った。こういう超大作ともなると、前置きが長かったり、入ってからも、重厚にゆっくり語るのが一般的だが、三三は、この噺をあくまで、とことこんエンターテイメントとして捉えているようだ。文芸作品ではなく、軽い乗りのB級アクション。(一)で勘当を食らう喜三郎。むしろ清々したとばかりに家を出ていくところがいい。グレて家と悶着を起こしてという風でもない。喋りもスピーディでユーモアも散りばめている。
 (二)に入ると、噺は俄然面白くなる。絵にかいたような敵役の登場。そしてこの先、喜三郎との因縁が深くなると思われる美女、芸者のお虎。待ち伏せを食らって三十対一の立ち回り、リンチ、脱出、仕返しと、もうこれぞB級アクション映画という筋立てと、軽快な語り口。胸のスーッとするラストと、これからどうなるのかという余韻を抱かせて、続きは来月のお楽しみ。談州燕枝作『嶋鵆沖白浪』。円朝の『牡丹灯籠』なんかより、こっちの方が、先を知りたくなる楽しさに満ちている。今年いっぱい、楽しみができた。

 円生を知らない三三だからできた落語かもしれないな。これぞ新しい落語。

7月15日記

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