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客席放浪記

2012年3月24日 第三三三回下町中ノ郷寄席(中ノ郷信用組合本店4階大ホール)

 月に一度、地元金融機関の多目的ホールを使って開かれている落語会。協会の垣根を取っ払って、しかも、前座、二ツ目、真打を番組に組み入れているというのは、理想的な番組作り。以前から、うらやましいと思っている。
 しかも、お客さんのほとんどが地元の常連さん。まさに地域密着型落語会になっているのが素晴らしい。しかも、今回で333回って、驚異的数字だ。

 そんな落語会だが、開口一番に上がった柳亭明楽は、今日はいつもと客席の空気が違うと感じているようだ。それというのもトリを取る真打が柳家三三だかららしい。
 その三三がまだ楽屋入りしていないということも、気がかりらしい。
 「今日で、八回目くらいになります。毎回ネタおろしをするようにしていましたが、今日は心折れそうなので、やり慣れているネタにします」と『たらちね』へ。頑張ってね。

 次に上がった三笑亭可女次は二ツ目でもさすがにベテラン。落ち着いている。それでもやはりまだ三三がまだ楽屋入りしてないのが気になっているよう。「ひょっとすると、このあと仲入りがあって、また私がもう一席ということになるかも知れません」 「だいたい、チラシに『三月三三三回だ。三三師匠だ! サァご期待』って、私はどうでもいいってことじゃないですか」と言ったところで客席から、「三三はヨロクだよ!」の声が。地元のお客さん、優しいね。
 「落語家やっていると、『いつ、笑点のメンバーになるんですか?』なんて聞かれるんですが、あれは誰かメンバーが死ななければ交替はありません。先日もそう言われて、目がクラクラしてきたので病院へ行ったら、『しょうてんが合っていません』」
 なんて、長めのマクラで繋いでいたら、客席にもわかる声で楽屋から「(三三師匠が)入りました」 ホッとした様子でネタの『紀州』へ。
 地噺だから、噺の間にマクラの続きのような脱線がたくさん入る。「上様って言われた事ありますか? 私はありますよ、領収書を貰ったとき。『上様って書いてたください』と言ったら、ひらがなで『うえさま』って書いてきた。『ひらがなじゃなくて』って言ったら、カタカナで『ウエサマ』」
 「落語家の弟子になるときは、三回断られると言います。一度で諦めるようじゃ者にならないということもあるのでしょうが。私が入門したのが九代目三笑亭可楽師匠。当時68歳。楽屋に逢いに行って師匠を前にして、思ったより歳だったので、やっぱり他の師匠にしようと思った。どうせ一回目は断られるのだからと『弟子にしてください』とお願いしたら、『いいよ』。師匠、惜しまれつつも今でも元気です」

 仲入り後、「待ってました!」の声があちこちからかかる。柳家三三の高座だ。ここで衝撃的な事を三三が話し始める。「ここに前に出させていただいたのは、もう10年くらい前でしたでしょうか。私はまだ二ツ目でした。そのときにトリを取ってるんですね、よんどころない事情で。そのころ私、パチスロに凝ってまして、池袋でパチスロやっていたら、やたらと携帯が鳴る。何かと思ったら、こちらの会があることをすっかり忘れていたんですね。急いで来てみたら、本来トリで上がるはずだった柳好師匠が先に上がって、紙切りの今丸師匠が山ほど紙を切っている。私が来るまで繋いでいてくださったんですね。それでもう、ここへは呼んでくださらないだろうと思ってました。私が主催者だったら二度と呼ぶものかと思いますよ」
 なるほど、前座さんや可女次が心配してたのが、これでわかった。
 ネタの『花見の仇討』へ入る。約束の時間に現れない、花見の趣向の相手にいら立つ男の様子が、可女次たちに被ってくる。それでも、三三が本所の叔父さんに捕まって酔い潰れてしまうロクさんじゃなくてよかった。どちらかというと、三三はヘラヘラやってくる巡礼兄弟役に近いのかな。

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