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客席放浪記

日本橋成金

2015年8月25日
お江戸日本橋亭

 成金とは、落語芸術協会の二ツ目が作るユニットの名前らしい。チラシによるとメンバーは、柳家小痴楽、昔々亭A太郎、瀧川鯉八、春雨や雷太、三遊亭小笑、春風亭升々、笑福亭羽光、桂宮治、神田松之丞、春風亭柳若、春風亭昇也の11人。この中から今日は五人が出て、ゲストに三遊亭小遊三を迎えるという番組。場内満員。芸協の二ツ目は勢いがあるからなのか、それとも小遊三が出るという理由なのか。ともかく開演時間が17時半と早いのに盛況だ。

 開口一番の前座さんは、三遊亭金の助『道具屋』と、春風亭昇羊『寿限無』。前座修業頑張ってね。

 「私の師匠は三遊亭笑遊。私が小笑ですから、ショーユとコショウの関係」と三遊亭小笑。何が何でも笑わせてみせるというのは師匠ゆずり。『悋気の独楽』のおかみさんは、まるで男みたいで、かつ威勢がいい。こりゃ、お妾さんを作りたくなるわなぁ。定吉も、饅頭を貰えるとなると、いくつもいくつも懐に詰め込む欲張りな性格。みんな逞しく生きているなぁ。

 今、芸歴17年の立川吉幸が芸協移籍にともない楽屋に前座として入っている。春雨や雷太が「米丸師匠が吉幸あにさんに『君の名前は何というんだね?』と訊いたところ『立川吉幸です』と答えたものだから、『なんで立川流の者が楽屋にいるんだ』と大騒ぎ。御年90歳の米丸師匠、詳しいことを知らされていなかったらしい」。芸協は、米丸、笑三と、90
になった人間が現役で高座に出ているんだから凄い。仲入り後に小遊三をかこんで『落語と結婚』と題した座談があるということで『鮑のし』

 一方で春風亭昇也は、三笑亭笑三の話。今、[浅草演芸ホール]で行われている謎かけ大会の司会をやっている笑三の様子を、面白おかしく(誇張があるのかな)話す。さらに車内でのギャル集団と酔っ払いの会話で笑わせ『看板のピン』。マクラの話し方といい、噺といい、師匠昇太の落語をだいぶ引き継いでてる感じ。それでいてこの人の個性も加味されているのはいいね。

 「熱中症って言葉、いつから言いだしたんでしょうね。『94歳の男性、自宅で熱中症で死亡』って、老衰でいいんじゃないですか? そっちの方が体裁がいいじゃないですか」。三遊亭小遊三は、たいこ持ちの小噺から『鰻の幇間』へ。最近の演じ手はこの噺の、「お宅はどちらでしたっけ」「先(せん)のとこだよ」の部分をカット、あるいはあまりしつこく演らなくなってきているような気がするのだが、小遊三は人一倍この部分を繰り返していた。こっちの方が、なんとかしてお旦に取り入ろうとする幇間の気持ちが出るし、騙されたと知ったときの一八が、どうりで先のとこで断ち切っていたわけだと悔しがる気持ちもわかってくる。

 仲入り後、小遊三を出演者全員が囲んで『落語と結婚』と題した座談。小遊三が奥さんになる人と知り合ったキッカケから、付き合っていた時の裏話、結婚後、お金の管理をすべて任せてしまったことから、ゴルフ会員権購入のために150万円が欲しくて、奥さんに、女と別れるために必要だと嘘をついて引き出そうとした話など。今日の成金メンバーで結婚していないのは、雷太、A太郎、松之丞。小遊三は「結婚は別に薦めないよ」と語り、自分が結婚したのは子供を作るためだったと言う。「だって日本の将来のためだもの」と結んだ。

 昔々亭A太郎は新作落語『面会』。入院中の男の子のところに、男が訪ねて来る。それは憧れの野球選手・・・というパターンかと思いきや、この男、逃げたお父さんの代わりにお母さんと結婚しようとしているバスの運転手。しかもやたら自意識過剰な男という、男の子にとっては、まったく受け入れられない男だったという噺。これは実に可笑しい。男の子はかわいそうだけど。

 本日のトリ、講談のの神田松之丞が高座に上がると、照明が暗くなった。「暗くなったのでおわかりでしょうが、怪談です。無理矢理にでも寒くするためにエアコンの設定温度を21℃にしてきました」と、『真景累ヶ淵 宗悦殺し』。「落語で50分のところを、ギュッと短縮、15分でお送りします」と始めた。松之丞、若いだけに切れ味が鋭い。シーンと波を打ったように静まり返る客席を前に、15分間ビシッと、この凄惨な世界を封じ込めた。固唾をのむとはまさにこのこと。迫力の高座だった。

8月26日記

静かなお喋り 8月25日

静かなお喋り

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