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客席放浪記

日本橋成金

2015年11月26日
お江戸日本橋亭

 開口一番前座さんは、瀧川鯉佐久『寿限無』。前座修行頑張ってね。

 開口二番の前座さんは、神田みのり『寛永宮本武蔵伝 熱湯風呂』。前座修行頑張ってね。

 春風亭柳若が、マクラで仲間の三遊亭日るねのことを語る。とにかく客席で見ていても日るねの天然ぶりは伝わってきて、面白い人だなぁと以前から思っていたが、この人の天然ぶりのエピソードはいくらでも転がっていらしい。「二つ目の会で、日るねさんが『粗忽の釘を勉強させていただきます』と言って楽屋を出ていったんですが、なぜか『堀之内』を演っている。『粗忽の釘』って言ってたよねと楽屋で話していたら、『堀之内』演りながら、『しまった〜、粗忽の釘に入れない』って登場人物が叫んでる」。同じ粗忽者の噺を天然の粗忽者の落語家が演っているという恐ろしい状況。そこで日るねさんに捧げるということで『粗忽の釘』へ。
 定番のネタだが、うまくイジってあって楽しく聴かせてくれた。さすが成金メンバー。

 神田松之丞は講談をやっているけれど、実は立川談志の追っかけだったということをカミングアウト。談志への思いと、今日のゲストの談幸が芸協に来たことで、芸協に大きな変化が起こっていることを語る。これは9年前に三遊亭遊雀が落語協会から移ってきた時以来のことだと力説した。別の血、別の芸風が流れ込んできたことで、協会内部、とくに若手に大きな影響を与える。これはとても面白い現象だし、いいことだと思う。
 20分の持ち時間のうち7分をさういうマクラに使ってしまったということで、13分で『幡随院長兵衛 芝居の喧嘩』。落語でも演るネタだが、さすが講談となると迫力が違う。しかも今、乗りまくっている松之丞。ダイナミックに決めてみせた。

 ゲストの立川談幸は、三ヶ月前に浜町会館の会でも聴かせてくれた『紺屋高尾』。奇をてらわず、きれいで丁寧な、それでいてどこか軽い仕上がりの『紺屋高尾』だ。それでいてグイグイと引き込む力がある。さらにたまに繰り出す独自のクスグリ。いい形の落語とはこういう人のことを言うのだろう。

 仲入り後は、ゲストの立川談幸を、本日出演の四人の成金メンバーが囲んでのトーク。「私は口が固いから喋りませんよ」と言いながらも、師匠談志のこと、芸協に移ってから感じたことを割とズバリと語ってくれた。芸協の若手から盛んに稽古をつけてほしいと言われて、これまで随分たくさんの人に噺をつけたそうだ。「ある二ツ目に稽古をつけたら、今半の詰め合わせを貰いました。次に入れ替わるように入ってきた人に稽古をつけてあげたら、この人も今半の詰め合わせ。最初のうちはうれしかったけれど、そのあと来る人来る人み〜んな今半。これは嫌がらせじゃないかと思って・・・。そう、この人(A太郎)にこの間『芝浜』を教えたら、また今半!・・・あれ、まだ上げに来ないね。今日ここでやる?」。

 こうして今日はトリのA太郎は『芝浜』だと、周りで演らなきゃ許さないといったムードができあがってしまった。

 瀧川鯉八の噺は、オスとメスの魚の会話。例によってシュールな世界で付いていける人と付いていけない人に分かれそう。それでもかなり笑いが起こっていたから、こういう会に来る人たちには受ける類の噺であることは確か。鯉八の噺は、突然わけがわからない始り方で入り、途中もシュールだったりするから、ちょっと戸惑う人も多いだろう。しかしこれ、なんか誰もやらなかった新しいタイプの落語だよね。

 マクラもなくスッと『芝浜』に入った昔々亭A太郎。談幸から稽古をつけてらった『芝浜』はまさに談志の型。話し方も談志を思わせるし、最後の女房の独白も、あれだけ喋ってしまうのはまさに談志型。談志の落語が芸協に流れていく、その姿を目の前で見ることができた。芸協の若手は今、今までになかったものを吸収して、どんどん伸びていってるな。そう感じた。

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