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客席放浪記

鉈切り丸

2013年11月24日
東急シアターオーブ

 いのうえシェイクスピア、また『リチャード三世』かあ。どうしよう。主演がV6の森田剛。う〜ん、迷うところだなぁ。それでもいのうえひでのり演出だし、今まで一度も行ったことないシアターオーブだし、決して損はしないだろうと思っていたところに、チケットを譲ると知人からのメール。ならばと観に行くことにした。

 森田剛、頑張ってるわ。いや、いのうえひでのり、無茶な要求するよ。森田演じる鉈切り丸、生まれながらに、せむしでびっこ、顔は爛れているという設定。猫背で中腰になって足を引きずりながら歩くって、とてもじゃないが、これを舞台で3時間って過酷過ぎるだろ。若いからできるようなもので、下手すると脚をおかしくしちゃわないかと、観ていて心配になってくる。

 こういう醜い身体の男の話って、ふと浮かぶのはせむしってことで、『ノートルダム・ド・パリ』みたいな、身体は醜くても、きれいな心の持ち主だったという展開になるのかと思うと、なにせこれ『リチャード三世』。そうはいかない。性格まで歪んだ悪と嫉妬と権力欲の権化みたいな人物。よくぞこんな役を演じたものだ。不自由な身体の動作を強いられながらも立ち回りまでこなす。最後は本水を使った立ち回り。まさに歌舞伎そのもの。

 休憩を挟んだ二幕もので、正味3時間。一幕目は生瀬勝久が中心で、いのうえひでのりらしいギャグも満載。山内圭哉とのやりとりなんか爆笑ものなのだけれど、二幕目の始め辺りから生瀬勝久がいなくなって、そこからは笑いの要素が影をひそめ始めて、ちょっと辛い展開になってしまう。

 結構前の方の席だったが、やはりオペラグラスを持って行って正解だった。どうしても役者さんの顔の表情はアップでみたいもの。そして女優さんを観たいと思ったらやっぱりアップで見ないと。成海璃子は初めて観るよなと思ったら、ああ『TRICK』で仲間由紀恵の少女時代をやった子役か。大きくなったんだなぁ。秋山菜津子は年寄りの役だけれど、どんな役やってもきれいだ。

 生バンドまで入って、歌や踊りも盛り込まれて面白かったけれど、正直、少々疲れた。なんか救いのない話なんだもの。悟りを開いたなんていう坊主が長々と説教するなんてこと自体が胡散臭い。悟りを開いたなら何も言わずに死んでいくべきだというような内容の台詞があって、そうだよなと変に納得したり。

 でもねえ、なんか人間のやることってちっちぇなぁと思う。マチネで観てロビーに出たら11階の窓から夕陽に浮かんだ富士山のシルエットが見えて、お客さんたち呆然と眺めていた。3時間の人間たちの愛憎劇が、この富士山のシルエットひとつで癒された気がした。

11月25日記

静かなお喋り 11月24日

静かなお喋り

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