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客席放浪記

ぬるい毒

2013年9月19日
紀伊國屋ホール

 携帯電話の注意のアナウンスが流れたので、そろそろ始まるかなと思ったら、このアナウンスが二度も三度も続けて流れる。さすがに四度目には客席から笑いが起こるが、そこへ大音響が響き渡り、客席はびっくりして凍り付くことになる。

 音が止むと、熊田由理(夏菜)が電話を受けているシーンから始まる。由理は高校を卒業して地方の短大に通う18歳。電話の相手は向伊と名乗る男(池松壮亮)で、高校時代の同級生だと言うが、由理には心当たりがない。向伊は借りた本を返したいと言うのだが、誰かに本を貸した覚えなどない。向伊は会って本を渡したいと言うのだが、どう考えても怪しい。ただ単に由理に会いたいがために電話をかけてきたのは明白なのだが、言葉巧みに言われるままに由理は向伊と会う。

 この向伊という男は、観客にとっても実に嫌な奴。こんなやつに騙されなければいいがと思って観ていると、由理はこの男に魅かれて行き関係を持つことになっていってしまう。

 この、観ていて心がざわつく感じは、ポツドールの芝居に似ている。いやーな感じのする青年。それでいてそんな男に夢中になっていってしまう女。向伊は東京の一流大学に通っていて、グラドルを始め何人も付き合っている女性がいるらしい上、ベンチャー企業を立ち上げようとしている。ただ、どうもどこまで本当で、どこからが嘘なのかも不明な胡散臭さプンプン。どうなるんだろうという興味でひきずって行く。これはいつか爆発するのかなと思っていたら・・・。その上を行っていたというか。

 ポツドールの芝居と同じで、ラストは唐突に終わり、客電が点き、終わりだと言うアナウンスが流れた。拍手なし。カーテンコールなし。中には呆然として椅子に座ったままの者もいる。

 なんか、全然ぬるくなんかない毒を盛られた感じ。

 本谷有希子の野間文芸新人賞作品の小説を、映画監督の吉田大八が脚本・演出した。本谷自身、脚本や演出をやる人だが、『ぬるい毒』は舞台化できないと小説の形で発表したもの。原作は読んでないが吉田大八は見事に舞台にしてみせたと言えるだろう。

9月20日記

静かなお喋り 9月19日

静かなお喋り

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