直線上に配置

客席放浪記

おもろい女

2015年6月24日
シアタークリエ

 森光子、芦屋雁之助のコンビで舞台化され好評だったというこの芝居は、今まで観たことがなかった。実在の漫才コンビの話だという程度の知識しかなかったので、観に行ってちょっと面食らった。藤山直美、渡辺いっけいのコンビは、なかなか良かったのだが・・・。

 ミス・ワカナ、玉松一郎のコンビは昭和初期の漫才コンビだという知識すらなかったものだから、まだ無声映画時代の道頓堀から話が始まったのでびっくり。そんな古い時代の話なんだぁ。

 『おもろい女』という題名から私が想像していたのは、藤山直美のミス・ワカナが笑いを振りまきながら楽しく人生を生きていくといった明るい喜劇だとばかり思い込んでいたのだ。それがどうも私の苦手な芸道ものの要素が強くて、「日本一の漫才師になるんや!」というリキが入ってしまっている感じに馴染めずじまい。お笑いの人間に、そんなにリキ入れられちゃうと、「違うんじゃないの?」と感じてしまう、ややひねくれた私が存在してしまう。お笑いの人には、どんなに人を笑わせることで天下を取りたいと思っても、飄々としていてほしい。そう感じるのは私だけだろうか?

 日中戦争が始まって、ミス・ワカナたちは戦地に慰問に出かける。バックに兵隊さんたちが大きな口を開けて実に楽しそうに笑っている写真が大写しされる。その笑顔が実にいいんですよ。もうこれだけでこの芝居は、観てよかったと思えるくらい。だから一幕目の終わりでミス・ワカナがラジオ放送で、戦場で逢った指揮官の戦死の報を耳にしたことから、漫才を休止して、指揮官のことを語りだすなんていうくだりは、「余計なんじゃないの?」と思えてくる。日本一の漫才師になることを宣言するような人ならば、全国で漫才を聴くのを楽しみにしている人を無視して、個人的な追悼話を始めてしまうなんて、あってはならないことのように思うのだ。

 ラストは終戦直後、西宮球場でのお笑い大会。何万人もの人の前でお笑い芸人が人々を笑わす。ここでもバックに観客の写真が写し出される。みんな本当にいい笑顔で笑っている。平和な世の中になって、お笑いを心の底から楽しんでいる。これがまた実にいい。もう、慰問先での兵隊さんの笑顔とここでの市民の笑顔。この写真があることだけで、どんなにいい作品になった事か。

 ミス・ワカナって、この作品を通して見ていると、実に嫌な女なのだ。最後は相方とは離婚するは、人は信用しなくなるは、ますます性格が悪くなって、さらにはシャブ中。それで戦後間もなく36歳の若さで亡くなってしまう。寂しい結末だな〜。

 なんだか私には、おもろい女ではなく、おもろくない女でしかなかった。まあ、おもろくない芝居ではなく、そこそこおもろい芝居ではあったんですが・・・。

6月25日記

静かなお喋り 6月24日

静かなお喋り

このコーナーの表紙に戻る

トップ アイコンふりだしに戻る
直線上に配置