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客席放浪記

ポンコツ大学探検部

2015年7月1日
紀伊國屋ホール

 一流大学とはいえない、ある大学の寄付金集めのパーティー。探検部は現役部員4名ながらも細々と続いている。そこへ大勢のOB、OGが同窓会のようにして集まってくる。ほとんどの者は、もう50代。社会に出ていろいろな苦労があったようだ。現役部員にとっては先輩風を吹かせられるのに、やや抵抗があるようだが、それでも尊敬の念を持って接している。

 探検部といっても、基本は登山。それが探検の意味が先輩たちの時代からすでに拡大解釈され始めていたらしくて、街のおいしい食べ物探検なんてこともしていたらしい。現在はパンケーキのおいしいお店の探検なんていうことにまで発展してしまっているらしい。それを嘆く者、面白がる者と様々。

 誰が主人公というわけでもない集団劇。大学を卒業して30年。順風満帆な者もいれば、リストラを食らった者もいる。さらにはそのリストラを断行した者も。結婚した者、結婚しなかった者、離婚した者。今でも山男生活をする者。今や山にはまったく登らなくなった者。そういった多岐にわたる人物をたくさん出しておいて、交通整理のようにして、それぞれの人生を描き分ける鈴木聡の手腕は素晴らしい。

 パンケーキ探検なんていうことをやりながら、一方でチョモランマ登山を実現しようと闘志を燃やしている現役青年たちも輝いている。そしてこの芝居は、50代という、定年までにはまだちょっと間がある年代の人たちのブルースを見事に描いていると言えるだろう。

 ブルースといえば、吾妻光良とスインギンバッパーズの曲が二曲流れた。『しかしまあ何だなあ』と『最後まで楽しもう』。このバンドもほとんど50代の人たち。そろそろもうみんな60かな? ユーモアのある明るいブルースを日本語で歌うバンドだ。可笑しいながらも悲哀に満ちた歌詞が多い。よく考えればラッパ屋の芝居に共通するものが多々あることに気が付いた。まさか鈴木聡がバッパーズを聴いているとは思わなかったが。

 あと最後で効果的に使われたのがフランキー・ヴァリの『君の瞳に恋してる』Can't Take My Eyes Off You 。『ジャージー・ボーイズ』も記憶に新しいところだが、『デイア・ハンター』でベトナムへ行く直前の若者たちが夜通し騒ぐときに使われたのもこの曲。大学の部室前で一晩過ごした先輩たちが、この曲に乗せて去っていく。なんとなく象徴的ではないか。

7月2日記

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静かなお喋り

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