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客席放浪記

2012年3月23日 第十四回鯉朝のらくごきち(お江戸日本橋亭)

 途中入場。前座さんの開口一番はもう終わっていて、瀧川鯉橋『転宅』も、もう佳境に差しかかっていた。

 何しろ、開演が17時30分。寄席の定席の夜の部ならまだしも、落語会ともなると平日の開演時間は、普通18時30分か19時。17時30分は異例に早い。

 そのあと高座に上がった瀧川鯉朝が「17時30分開演は早いでしょ。しょうがないんです。このワクは協会が持っているワクで、通常の協会の興業ということなんですから」と言う。なるほど、よく見ると、芸協若手特選会の文字が。「会社員は間に合わないですよね」 ごもっとも。
 今日の高座は横に長く作られている。これは、このあとの企画で真打昇進披露口上の公開練習があるからで、通常の高座の横に、台を追加している。
 「この予備の台はステンレスで作ってあって、折り畳み式なんです。これを出してきて組み立てるのに、よく手を挟む人がいるらしくて、よく見ると、あちこちに血のあとが付いている」 血と汗と涙の高座台。ブラット・スエット&ティアーズ。真打になるためには、いろいろあったんだという備品。
 一席目は『反対俥』。一回転ジャンプも決まって、まだ若いね、鯉朝さん。

 神田松鯉『水戸黄門・雲居禅師(うんごぜんじ)』。水戸黄門が瑞巌寺に立ち寄ったときに見た、血のついた下駄にまつわる噺。血まみれなのはステンレスの高座台だけじゃない。血が着いたものには、いろいろと苦労があったのだという見本かな。

 中入り後は、本日の目玉(?)企画。真打昇進興業を五月に控えた瀧川鯉橋の真打昇進披露口上公開練習。口上の席に上げられた新真打は口上の間中、一言も発してはいけない。両手をついたまま、居並ぶ幹部連の挨拶を何を言われようとジッと耐えねばならない。
 幕が開くと、鯉橋を中央に、松鯉、遊喜、それに司会役の鯉朝が横一線に並んでいる。これは新真打になる鯉橋以外にも、いずれこういう席に並ぶことになるであろう鯉朝たちの予行演習でもあるらしい。飛び入りの桂三四郎も含めて、みんなで鯉橋の暴露話が飛び出す。これも落語界らしい手痛いお祝いの洗礼だ。そんな中ベテランの松鯉が、自分が真打昇進したときの披露パーティの内輪話をしてくれた。結局これが一番面白かったのだが、さすがにこういうところで話すコツを知っている感じ。

 ギタレレ漫談のぴろき。いつもの自虐ネタが並ぶのだが、それが可笑しいのなんの。「終電に乗り遅れて、ようやく安いホテルを見つけて泊りました。3800円。朝、隣の建物を見たらペット・ホテルでした。中型犬4500円って書いてありました」 「取っておきのワインがあるというので、飲ませていただきました。でも普通のワイン。取っておいただけのワインでした」

 瀧川鯉朝二席目。つるしで売っていた、11000円の着物と紋付で登場。「メイド・イン・インドネシア。丈夫で、汚れにくい。化学繊維ですから。でも熱に弱い。溶けます」と偽左甚五郎を描いた『名人外伝・二人の甚五郎』へ。
 東照宮の眠り猫に衝撃を受けた大工の若者が、甚五郎の名前を騙る。そこに本物の甚五郎が現れる。気持ちよい余韻を残してこの新作は終わる。いいのが出来たね、鯉朝さん。

3月24日記

静かなお喋り 3月23日

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